
道徳形而上学の基礎づけ
今年、イマヌエル・カント(1724-1804)の主著『道徳形而上学の基礎づけ』(1785年。以下『基礎づけ』と略記します)に関する書籍が二冊、出版されます。日本を代表する哲学者である永井均による『『道徳形而上学の基礎づけ』を解体する:カントの誤診2』と、『カントを読む、倫理学をひらく:『道徳形而上学の基礎づけ』精読』(カントを読む、倫理学をひらく - ミネルヴァ書房 ―人文・法経・教育・心理・福祉などを刊行する出版社)です(後者は4月に出版予定のようです)。
『基礎づけ』は日本でも昔からカント入門にふさわしい書と考えられてきました。『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』といった主著と比べると、かなり短い上に、カントにしては(?)文章が平易だからです。特に、同じ道徳哲学を扱うという点において、『実践理性批判』の代わりに『基礎づけ』が読まれることも多いようです(ちなみに『実践理性批判』講義はオンデマンド型で公開されています)。しかし、先の二冊は、(カントに対するスタンスやその解釈、目的は異なるとはいえ)『基礎づけ』の章ごとにコメントを付すという方法をとっています。そのような書籍が、カントの死から200年以上経った現代において出版されたわけです。これが意味するのは、やはり『基礎づけ』は200年経っても(少なくとも独学で読むには)難しい!!ということでしょう。本書は短いがゆえに、必要な知識なしには読みにくいのです。
さて、本書は哲学の中でも道徳哲学、もしくは倫理学に関する著作です。道徳哲学とは、行為の正不正、または善悪を扱う部門であると言えます。例えば、他人の嘘をつくことはつねに不正でしょうか、それともその嘘によって人が幸せになるのであればその嘘は正しいのでしょうか。みなさんもこのような倫理的ジレンマに何度となく遭遇したことはあるのではないかと思います。
この問いに対するカントの答えは「いついかなる時も嘘をついてはならない」というものです。その理由は主に『基礎づけ』第二章後半で展開されますが、まさにこの箇所の議論は多くの点で現代にも影響を与えています。例えば、多くの世界中の法的文書に盛り込まれている「人間の尊厳」という考えもカントに端を発するものです。あるいは、結果よりも動機が大事だという考えも、まさにカントに特有なものです。
今回の講義では、このようなカントの道徳哲学を代表する『基礎づけ』を解説していきます。カントが道徳を構築していく見事な流れを追跡していきましょう。もちろん、五週間の講義ではこれ以上を望むことは難しいですが、可能であればカントの見解をさらに批判的に検討していきます。せっかくなので、本講義では、先述の二冊の解釈も紹介してみたいと思います(くれぐれも申しておきますが、これらは本講義の教科書ではありませんので、入手していただく必要はありません)。ただし、テキストの難解さゆえ、本講義は決して楽なものではありません。細かな論点は省かざるを得ませんが、気になる点はいくらでもSlackにてご質問ください。
ぜひこの機会に、『基礎づけ』を手に取って本講義に参加していただきたいです。誰も「置いてけぼり」にはしません。チャレンジングな体験に旅立ちましょう!!それでは、講義でお会いできるのを楽しみにしております!!
・本講義に参加される場合は、『道徳形而上学の基礎づけ』(大橋容一郎訳、岩波文庫、2024年)をご準備ください。私の授業では主にこの翻訳を使用します。あるいは、『カント プロレゴーメナ 人倫の形而上学の基礎づけ』(野田又夫訳・中公クラシックス)でもかまいません。講義資料では、どちらの翻訳を使用してもついていけるように、(頁数などの標記などにおいて)配慮する予定です。また、これら以外の翻訳を使用いただいてもかまいませんが、頁数などの標記については配慮できませんのでご了承ください。
・本講義はデフォルトで30分延長します。2時間講義と理解ください。





