終了済み講義

幸福の追求:

『幸福の追求: ハリウッドの再婚喜劇』

スタンリー・カヴェル 著

22年10月3日(月) ~ 22年10月31日(月)

毎週月曜日 20:00 - 21:30

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講師: 冨塚 亮平

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視聴期限:2025年10月31日

全4回講義

参加料金:6000円

最少開講人数:10名

講義概要

この講義では、祝日を挟んで四週間かけてみなさんとアメリカの哲学者スタンリー・カヴェルの代表的著作の一つ、『幸福の追求 ハリウッドの再婚喜劇』(原書:1981年)の前半部(具体的には、序から第三章、および補遺)を読んでいきます。毎回50ページほどのペースで本を読み進めつつ、第2回目以降は毎回1本の映画を同時に扱います。(なお、今回の講義が好評のうちに終了した場合には、来年の3月頃に後半部を扱った講義を再度実施する予定です)。

主にハリウッド映画について論じたカヴェルのテクストは、映画を理論的に分析した学術的なものというよりは、アメリカ人としての彼の個人的な経験や記憶と強く結びついた、哲学的エッセイの要素を強く持っています。それゆえ、ややとっつきにくい印象を持たれがちである一方で、どちらかといえば研究よりは映画批評に通じるような、非常に独創的な記述に溢れており、読めば不思議と元気が湧いてくるような内容となっています。本講義では、飛躍や脱線を数多く含むようにも見える彼の文を素直に読んでいくなかで、みなさんがカヴェルの思想や文体の魅力を見出すきっかけを少しでも提供できればと考えています。

そんなカヴェルが映画を論じた何冊かの著作は、欧米ではジル・ドゥルーズらと並ぶきわめて大きな影響力を有する哲学者の映画論として、現在まで盛んに論じられてきました。また、彼の議論は映画研究の文脈を超えて、美術批評家のマイケル・フリードや、テレンス・マリックやアルノー・デプレシャンといった現役の映画監督たちの活動をおおいに触発してきたことでも知られています。しかし、映画というメディウムの特徴や「映画の存在論」を論じた哲学書である『眼に映る世界』(1971)を除いて、具体的な映画作品を論じた書籍がこれまで翻訳されてこなかったことから、日本ではこれまでカヴェルの議論に十分な注目が集まってきたとは言えない状況にあります。

カヴェルにとってはじめての映画作品を中心的に論じた著作である本書『幸福の追求 ハリウッドの再婚喜劇』は、『レディ・イヴ』(1941)、『或る夜の出来事』(1934)、『赤ちゃん教育』(1938)、『フィラデルフィア物語』(1940)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1940)、『アダム氏とマダム』(1949)、『新婚道中記』(1937)を「映画芸術の歴史における一つの到達点」として評価し、その意義を考察した一冊です。この本でカヴェルは、通常「スクリューボール・コメディ」として知られるこれらの作品を「再婚喜劇」という独自のジャンルカテゴリーを設けて提示しています。

カヴェルは、一度仲違いしたカップルが再び結ばれる、かつて「元サヤ」と呼ばれた展開を共有するこれらの再婚喜劇映画に、ラルフ・ウォルド・エマソンやルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの思想との類縁性、さらには映画作品に対峙する観客のあり方とも重なるものを見出していきます。こうした彼の特異な文体の魅力をみなさんと共有しながら、具体的な作品解釈や彼の議論への意見を交換し、考えを深めていければと思います。

本講義は、本書やカヴェルの議論、あるいはロマンティック・コメディ映画や映画論全般に関心を持つ方に加えて、哲学や現代思想に興味がある方、パートナーとの関係がうまくいっていない方などに受講をおすすめします。ふだん映画は観るが映画批評はそれほど読まない方、逆に哲学書は読むものの映画はあまり観ないといった方も歓迎します。著作および講義内容や登場する映画、人物に関する質問は、些細なものでも随時Slackにて受け付けます。積極的なご参加をお待ちしております。

使用テクスト:『幸福の追求 ハリウッドの再婚喜劇』(石原陽一郎訳、法政大学出版局、2022年)を使用します。第二回以降には各回一本の映画(『レディ・イヴ』、『或る夜の出来事』、『赤ちゃん教育』)を扱いますが、それらの作品については、現在DVD版だけでなく配信でも閲覧可能となっておりますので、適宜ご参照ください。(参照:https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-01144-3.html) また、必ずしも読了の必要はありませんが、日本語で読めるカヴェルを論じた入門的なテクストを中心とする関連文献や、今回扱う三本の映画についてカヴェルが執筆した本書とは異なる短めのエッセイについても、随時講義内でご紹介します。

各講義の概要

第1回講義:2022年10月03日(月):20:00 - 21:30

初回ではまず、『幸福の追求 ハリウッドの再婚喜劇』の著者スタンリー・カヴェルの経歴や思想について簡潔に紹介します。コメディやメロドラマといったジャンル映画を論じつつ、同時にラルフ・ウォルド・エマソンやルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの思想を独創的に再解釈する、多岐にわたるカヴェルの議論を貫く問題意識についてお話しした上で、本書「序」の前半を読んでいきます。できる範囲で結構ですので、「序」を読み進めた上で参加いただけると幸いです。「再婚喜劇」というジャンルの概要を中心に内容をまとめながら、受講者の方々が今後本書を読み進めていく上で注意してもらいたい点、意識してほしい点を、具体的に提示します。

第2回講義:2022年10月17日(月):20:00 - 21:30

第2回では、受講者の方々からの質問や疑問点を取り上げつつ、順を追って「序」の後半および第1章の内容を確認していきます。引き続きカヴェルのジャンル論の特徴について概説しつつ、カヴェル自身が「ジャンルに関わる側面のスケッチとしてもシェイクスピアに関わる側面のスケッチとしても十分に明快に書かれている」と述べる、プレストン・スタージェス『レディ・イヴ』(1941)論を、具体的な作品論の範例として精読します。また、補足として同映画について書かれたカヴェルの別のテクストの内容を簡単にご紹介します。

第3回講義:2022年10月24日(月):20:00 - 21:30

第3回では、受講者の方々からのコメントを取り上げつつ前回までの内容を振り返った上で、第2章の内容を議論します。長大な本章で論じられるフランク・キャプラ『或る夜の出来事』(1934)は、たとえば蓮實重彥の『ハリウッド映画史講義 翳りの歴史のために』(1993)などの著作で、映画が物語に従属させられていく過程を代表する凡庸な映画の一つとして批判されてもきました。哲学や文学への自由自在な言及を絡めてキャプラを評価するカヴェルの議論を通じて、シネフィル的な価値観とも典型的な映画研究の姿勢とも異なる、カヴェル独自の古典映画への対峙の仕方についても考えられればと思います。

第4回講義:2022年10月31日(月):20:00 - 21:30

第4回では、まず受講者の方々から寄せられた疑問や指摘についてともに考えたのち、カヴェルがはじめて書いた作品論でもある、ハワード・ホークス『赤ちゃん教育』(1938)について論じた第3章を読んでいきます。また、元々はこの章と同じ論文の一部であった補遺「大学における映画」、別の著作で同映画を論じた短いテクストをあわせて扱います。ラストシーンの解釈を中心にしつつ、なぜ哲学を専攻する私が『赤ちゃん教育』を真摯に論じなければならないのか?を問い直そうとする、カヴェルの「自己反省的な観客論」(木原圭翔)の射程について考察した上で、最後に改めてみなさんと本書の面白さについて議論します。

講師からのメッセージ

はじめまして。冨塚亮平と申します。専門は19世紀以降のアメリカ文学、および文化です。

これまでは主に、19世紀中頃に活躍した思想家・詩人のラルフ・ウォルド・エマソン(Ralph Waldo Emerson, 1803-1882)について研究してきました。現在は、哲学者スタンリー・カヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)など、その他の書き手にも関心を広げています。また、19世紀から現代に至るアメリカ文学や映画についても広く関心を持ち、いくつかの媒体で論考を発表しています。

本講義では、映画を観ることと作品について書かれた文を読むことを往復しつつ、少しずつカヴェル独自の文体や思想に接近できればと思います。その際、アメリカ文学についての知識がさほどない場合にはなかなか文脈を捉えるのが困難であろうと思われる、エマソンやヘンリー・デイヴィッド・ソローらへの言及について、なるべく具体的に噛み砕いて説明することを意識しつつ講義を行っていきます。

世代を問わず、多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。