開講中の講義

自由と社会的抑圧

『自由と社会的抑圧』

シモーヌ・ヴェイユ 著

24年9月15日(日) ~ 24年10月20日(日)

毎週日曜日 20:00 - 21:30

三浦隼暉

講師: 三浦隼暉 (東京大学人文社会系研究科)

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終了後2年視聴可能

全5回講義

参加料金:9800円

最少開講人数:15名

講義概要

行動と思索の哲学者として知られるシモーヌ・ヴェイユ(1909–1943)は、その長いとは言い難い人生のうちで、人の心を打つ振る舞いと文章を数多く残しています。学生時代には、アランやラニョーといった師によって、プラトンデカルトスピノザカントなど伝統的な哲学を丹念に読み込むことを教わったヴェイユ。多くの先人たちの影響を受けながら、どのように生きるべきかを考え抜き、それを自らの言葉と行動へとうつしたのでした。

ヴェイユの人生は壮絶なドラマに満ち溢れています。デカルトに関する卒業論文でパリ高等師範学校を卒業後、失業者デモに参加して当局と衝突したり、自ら工場に就労して『工場日記』を著したり、スペイン内戦に自ら義勇軍の一員として参加したり、戦争の最中ニューヨークに渡ったかと思えばすぐにロンドンへと戻り「前線看護婦部隊編成計画」を練ったり…。これらの怒濤の「行動」のなかで、ヴェイユは「思索」をすることを常に忘れませんでした

今回とりあげるのはヴェイユの比較的に初期の著作ともいえる『自由と社会的抑圧』(正確には「自由と社会的抑圧の原因をめぐる考察」)です。1934年、自身の工場就労の直前に書かれた本論文は、労働をめぐる個人と集団のあるべき姿を模索する内容となっています。ヴェイユは、マルクス主義の不十分さを指摘した上で、どのようにすれば現状の抑圧的な労働を自由なものへと作り直すことができるのか、徹底的に考え抜こうとしているのです。

ヴェイユは、自らの時代を——現代もまた同様だと思いますが——、労働者のように抑圧される人々も、そうした人々を抑圧する人々も、国家を構築している非人間的な「システム」に隷属させられていると捉えていました。「個人が占有すべき思考が、集団的生を結晶化させる広大無辺のメカニズム」(『自由と社会的抑圧』岩波文庫, 123頁)によって支配されているというわけです。

肝要なことは、いかにして一人一人の人間が自由に「思考」することを引き伸ばし抑圧を退けることができるのか、そして、いかにして思考を阻害しようとする社会的「抑圧」を弱めることができるのか、そのための道筋を考えることです。

簡単な内容ではないかもしれませんが、初めて哲学書を読むという受講者の方々にも配慮しつつ丁寧に進行いたします。また講義外の時間もSlackを通して、みなさまの読書をきっちりサポートいたします。現代社会にも通じる問題を皆さんと共に考えていきたいと思いますので、ぜひご参加ください。

※今回の講義では、シモーヌ・ヴェイユ『自由と社会的抑圧』(冨原眞弓訳, 岩波文庫, 2005年)を用いて講義中の参照指示などを行いますが、これ以外の翻訳を既にお持ちの方は、そちらを使って参加していただいても構いません。

各講義の概要

第1回講義:2024年09月15日(日):20:00 - 21:30

初回は、『自由と社会的抑圧』を読み進めるための準備作業を行います。シモーヌ・ヴェイユは、その人生自体が哲学的なものであったといえます。思索を行動に移し行動を思索するとはいかなることなのか、ヴェイユの経歴を辿りながら考えてみたいと思います。さらに、スピノザとマルクス・アウレリウスから引用されたエピグラフ、そして本論文の「序」を読んで、全体を通して何が語られるのかを解説します。

第2回講義:2024年09月22日(日):20:00 - 21:30

第2回は、第1章「マルクス主義の批判」を読解します。マルクスの理論が物質的な「生産力」を拠り所としていたことを批判し、真に実現可能な社会的変革がどのようなものでありうるかを、ヴェイユとともに考えていきます。ここでは「革命」という言葉についてもヴェイユの鋭い批判が展開されているので注目したいと思います。

第3回講義:2024年09月29日(日):20:00 - 21:30

第3回は、第2章「抑圧の分析」を読解します。労働における「抑圧」はいかなる条件で生じてくるものなのか、丁寧な分析が行われている箇所です。際限のないように思われる権力拡大を抑制する様々な契機を検討し、どのようにすれば社会の抑圧的状況を乗り越えることができるのかを模索します。

第4回講義:2024年10月13日(日):20:00 - 21:30

第4回は、第3章「自由な社会の理論的展望」を読解します。世の中が「完全な抑圧」へと向かおうとしているのであれば、それに抵抗するためには「完全な自由」という理想を打ち立てる必要があるとヴェイユは考えます。人々が避けることのできない労働において、いかにして自由でもありうるのか。必然性と自由をめぐる思索を読み解いていきましょう。

第5回講義:2024年10月20日(日):20:00 - 21:30

第5回は、第4章「現代社会の素描」および「結」を読解します。ここでは、抑圧される側だけでなく、抑圧する側もまた社会という大きな集団へと隷属せざるをえない時代状況を描き出していきます。「起伏のはげしい田舎道を運転手もなく疾走する自動車に、なにも知らずに乗り合わせた旅行者たちの状況に似ている」(岩波文庫, 138頁)と言われるように、個々人は誰であれ集団に振り回され、自らの為すことを愛せなくなっているのではないでしょうか。現代にも通じるこうした状況を乗り越える道筋を、皆さんとともに考えたいと思います。

講師からのメッセージ

こんにちは。東京大学大学院で哲学を研究している三浦隼暉(みうらじゅんき)です。これまで、多くの参加者の方々と一緒にデカルトやスピノザ、ライプニッツなどの17世紀哲学の著作や、フーコーの生命思想史に関する著作などを扱ってまいりました。

しばしば「哲学研究って何をしているの?」と聞かれることがあります。研究の進め方は人によって様々ですが、私の場合、300–400年前のヨーロッパで書かれた文章を読みながら、その内容を、時代も文化も異なる現代の我々にも理解できるような仕方で提示し直すような研究をしています。

私が目指しているのは「哲学は留保なしに愉しい」と感じてもらえるような講義を作ることです。一緒に哲学書を紐解くことで、そのような愉しさを経験するお手伝いができればと考えています。最後に、私の恩師が残した言葉を送ります。「本は一人で読むものですが、ときには窓を開けて一緒に哲学をしましょう」。



参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。