開講予定の講義

宗教的経験の諸相

『宗教的経験の諸相』

W.ジェイムズ 著

24年10月5日(土) ~ 24年11月9日(土)

毎週土曜日 20:00 - 21:30

大厩諒

講師: 大厩諒 (中央大学)

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終了後2年視聴可能

全5回講義

参加料金:9400円

最少開講人数:10名

利用規約
講義概要

 この講義では、ウィリアム・ジェイムズ(1842-1910)の『宗教的経験の諸相』という著作の前半部を読んでいきます。ジェイムズは19世紀後半から20世紀初頭に活躍した米国の哲学者、心理学者で、「プラグマティズム」という考えの提唱者としても知られています。

 今回扱う『諸相』は、「宗教的」と形容されるさまざまな体験を、大量の日記や手紙、自伝といった資料を駆使しながら考察したもので、宗教心理学の古典にも数えられます。(とはいえ、この著作の射程は狭義の心理学に収まるものではありません。そのことは、講義を通じて論じていく予定です。)

 ジェイムズが生きた19世紀後半から20世紀初頭にかけては、従来の宗教的信念と新興の自然科学的知見との緊張関係が強く意識される時代でした。ジェイムズは『諸相』以外にも多くの著作を書き、心理学や形而上学、倫理学など、多岐にわたる主題を論じていますが、宗教はそれらに共通するモチーフでした。いいかえれば、彼の思索活動は一貫して宗教の解明と擁護に向けられていました。そのジェイムズが「宗教」とはいかなるものであるかを詳細に論じたのが、この『諸相』という著作なのです。

 くわえて、宗教は現代においても世界的な関心事のひとつです。世界人口の8割以上が何らかの宗教を信じていると言われており、宗教は私たちの生活や社会と切りはなせない関係にあります。他方で、日本では、特定の宗教に属しておらず、明確な信仰や教義を持たないという人も多くいます。しかし、初詣や墓参り、お守りやお札、神社仏閣巡りといった明らかに宗教的な行動は、私たちの日常生活のなかに自然に組み込まれています(したがって、「日本人は無宗教である」という主張は誤りだと思います)。こうしてみると、宗教は現代の私たちとも深くかかわっていることが分かります。

 この講義では、ジェイムズの生きた時代と私たちが生きる現代との共通の関心事である宗教について考える視点のひとつとして、この『諸相』を読み解いていきたいと思います(ただし、時間の都合で前半部のみを扱います)。つまり、この著作を読解することで、私たちの生とジェイムズの思索の両方を明らかにすることが、この講義の狙いです。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。



※この講義で使用する邦訳は、現在最も入手しやすい岩波文庫版(桝田啓三郎訳、1969-70年)になります。講義内で引用する場合は、上巻の頁数を表記します。

各講義の概要

第1回講義:2024年10月05日(土):20:00 - 21:30

 初回は、『諸相』を読む際に手助けとなる背景知識について講義します。ジェイムズの生涯や思想の特徴、ジェイムズと宗教の関わり、『諸相』という本の概略などを紹介します。後半では、『諸相』(上)の冒頭に置かれた「原著序」も読んでいきます。邦訳で2頁と短いですが、ジェイムズがこの本で何をしようとしたのか、どのような方法で考察したのかが簡潔に述べられており、全体像をつかむうえで有用です。

第2回講義:2024年10月12日(土):20:00 - 21:30

 第1講「宗教と神経学」、第2講「主題の範囲」を読解します。宗教とか信仰とか特異な体験といったものは、私たちの身体のメカニズムによって生み出された一種の錯覚みたいなものではないか――生理学や医学が急速に発展した19世紀には、こうした主張が声高になされるようになります。また、脳科学が飛躍的に進展した現代を生きる私たちにとっても、ここで述べられる宗教批判はいっそうリアリティを持って実感されることでしょう。これに対してジェイムズがどのように宗教を擁護をしているかを検討します。

 なお、毎回の講義で扱う読書範囲は、邦訳で70~100頁くらいになり、分量としてはやや多めです。事前に目をとおしていただければ、講義内容がよりスムーズに理解できると思います。ただし、先に講義で大枠をつかみ、そのあとで邦訳を読むという流れも可能です。ご自身に合った読み方を試してみてください。

第3回講義:2024年10月26日(土):20:00 - 21:30

 第3講「見えない者の実在」、第4・5講「健全な心の宗教」を読解します。宗教的経験においては、通常の感覚や判断を超えた不思議な感じがリアリティを持って迫ってくることがしばしばあります。そうした体験を具体的に観察しながら、どのような特徴を備えた経験が「宗教的」と呼べるかについて考えていきます。後半では、19世紀に大流行した「健全な心の宗教」という楽観主義的態度を概観します。これは現代の自己啓発思想の源にもなった現象であり、当時の時代状況を知るうえで興味深い事例です。

第4回講義:2024年11月02日(土):20:00 - 21:30

 第6・7講「病める魂」、第8講「分裂した自己とその統合の過程」を読解します。ここでは、前回とは正反対の悲観的な人生観――「病める魂」――から生まれる宗教を見ていきます。私たちの生活のなかに満ちあふれる悪や苦悩を直視することで、世界の見方にどのような変化が生じるかを検討します。後半では、健全な心と病める魂の対比を確認したうえで、これら二つの傾向に引き裂かれた人間が統一を回復するプロセス(ある種の救済)について考察します。これは、次回扱う「回心」と呼ばれる宗教現象に直結します。

第5回講義:2024年11月09日(土):20:00 - 21:30

 第9講「回心」、第10講「回心――結び」を読解します。それまで信仰をまったく持っていなかった人がある日突然神の愛に目覚めるといった事例は、古くから数多く見られます。ジェイムズは、こうした「回心」という経験を、当時の心理学において最先端の学説であった潜在意識説を参照しながら詳細に分析します。この議論を通じて、ジェイムズ自身の宗教観や神観も示唆されることになります。

講師からのメッセージ

 はじめまして。大厩 諒(おおまや りょう)と申します。ウィリアム・ジェイムズの思想を中心に、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカ哲学の歴史を研究しています。

 この時期のアメリカ哲学は、「プラグマティズムの時代」としてまとめられることもありますが、実際にはさまざまな立場が乱立した群雄割拠の状態で、プラグマティズムはそのうちのひとつにすぎませんでした。当時活躍した哲学者たちは、いまではほとんど忘れ去られた存在ですが、そんな人たちの思想を発掘するのが私の研究のメインテーマです。

 哲学は、ほかでは得られない世界の見方を私たちに与えてくれます。これは、とても楽しく、興奮する営みです。しかし、哲学の楽しさを十分に味わうには、一定の準備が必要で、それが哲学史です。講義をとおして、哲学をより楽しむために、私自身も学んでいきたいと考えています。

 みなさんのご参加を心よりお待ちしております。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。
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