終了済み講義
1646年、三十年戦争の最中、ドイツ中央に位置するザクセン地方の中心地ライプツィヒで、天才哲学者ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツが彗星の如く誕生しました。彼こそ、のちに微分法を打ち立て、計算機の先駆と評される二進法の重要性に着目し、ヴェルフェン家史を調査・執筆し、ハルツ鉱山計画に参加して独自のポンプを考案し、教会再合同のためにカトリックとプロテスタントの間を奔走し、さまざまな政治家や学者たちと交流し、そして何より、それまで誰一人辿り着かなかった「モナドロジー」と呼ばれる哲学に至った人物です。その哲学は現代においても新しさを失っておらず、多くの思想家や文筆家、芸術家、他の分野の学者たちにも参照され続けています(例えば最近だと「アクターネットワーク理論」という社会学理論を提唱しているブリュノ・ラトゥールへの影響などが知られています)。
今回の講義では、ライプニッツ哲学を考える上で避けることのできない著作『形而上学叙説 Discours de métaphysique』を扱うことになります。1686年頃、短い休暇をつかって書かれたこの著作は、ライプニッツ哲学の重要なテーゼたちを体系立てて論じたもので、ライプニッツ哲学への入門としても最適だと思われます。世界の最善性や、個体が宇宙の全体を含んでいるという主張など、彼独自の哲学が存分に展開されている点でとても面白い著作になっています。
『形而上学叙説』の校訂版を編纂したル・ロワは、この著作の構造を「満ち潮と引き潮」という美しい比喩で表現しています。というのも〈神から被造物へ〉〈被造物から神へ〉という議論の満ち引きが、この著作では繰り返されているというのです。「神」や「被造物」という言葉に驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。たしかにキリスト教的な含みもある言葉ではありますが、「世界のうちに在るもの」と「世界の背後にあるシステム」とを往復するという意味で、現代にも通じる議論としても私たちは受け取ることができます。
本講義では、最新のライプニッツ研究なども踏まえて本格的な議論も紹介しつつ、初めて哲学書を読まれる方や、この時代の哲学に今まで触れたことのない方にも配慮しながら講義を進めたいと考えています。現代の私たちには馴染みのない言葉や概念が多く登場するかもしれませんが、講義外の時間でも Slack(チャットや掲示板のようなものです)での「講師への質問」や「講師からの問いかけ」などを用いつつ、皆さんの読書をできる限りのサポートをいたします。
参加者の皆さんにライプニッツ哲学の面白さを知っていただくこと、これが私の願いです。みなさんのご参加をお待ちしております!
※講義で準拠するテクストとしては、ライプニッツ『形而上学叙説・ライプニッツ-アルノー往復書簡』(平凡社ライブラリー)を用いる予定です。電子版、紙版、どちらでも問題ありません。また、中公クラシックス版や岩波文庫版での参加でも問題ありません。
第1回講義:2023年05月09日(火):20:00 - 21:30
初回の講義ではライプニッツの『形而上学叙説』を読み進めていくための準備運動を行います。デカルトやスピノザ、マルブランシュなどとの関係も含め、どういった時代状況のなかで書かれた本なのか、そしてライプニッツはこの本を通して何を論じようとしたのか、という点について丁寧に解説します。また、哲学書を読み進める際のコツや、質問の仕方、哲学的な文章の書き方などについても簡単に紹介します。
第2回講義:2023年05月16日(火):20:00 - 21:30
第1節から第7節を扱います。冒頭から世界の最善性などに関する議論が始まり、戸惑うことがあるかもしれません。そうした点をうまく消化しながら読み進めていっていただけるように、議論の背景なども含めて丁寧に解説する予定です。
第3回講義:2023年05月23日(火):20:00 - 21:30
第8節から第16節を扱います。本著作の重要な主張のひとつである完足個体概念が登場します。それぞれの個体が宇宙の全体を含み込むという議論を正確に理解することを目指します。ライプニッツ哲学の独特な部分が浮かび上がってくることになります。
第4回講義:2023年05月30日(火):20:00 - 21:30
第17節から第29節を扱います。前半(第17節から第22節)では、ライプニッツ哲学のなかで「自然法則」や「目的因」がどのように扱われるかが論じられます。後半(第23節から第29節)では、私たちがもっている「観念」について主題的に論じられることになります。
第5回講義:2023年06月06日(火):20:00 - 21:30
第30節から第37節を扱います。複数のものが合一してひとつのものを構成するということについて論じられていきます。心身関係や社会関係、人間と超越的なものの関係などについて扱い、最終的に、より善い世界を目指す私たちの道徳についても議論が及びます。
こんにちは。東京大学大学院で哲学を研究している三浦隼暉(みうらじゅんき)です。The Five Books での講義も二年目となりました。これまで、多くの参加者の方々と一緒にデカルトやスピノザ、ライプニッツの著作を読み進めてまいりました。
しばしば「哲学研究って何をしているの?」と聞かれることがあります。研究の進め方は人によって様々ですが、私の場合、300–400年前のヨーロッパで書かれた文章を読みながら、その内容を、時代も文化も異なる現代の我々にも理解できるような仕方で提示し直すような研究をしています。
私が目指しているのは「哲学は留保なしに愉しい」と感じてもらえるような講義を作ることです。一緒に哲学書を紐解くことで、そのような愉しさを経験するお手伝いができればと考えています。最後に、私の恩師が残した言葉を送ります。
「本は一人で読むものですが、ときには窓を開けて一緒に哲学をしましょう」。