終了済み講義
本書の中心的メッセージは1つ、「集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する」です。このメッセージがどのように導き出され、何を意味しているのか。本講義では、4週間をかけて、それを辿っていきます。
鍵となるのは信頼に関する3つのパラドックスです。それを整理していく中で、本書の肝である信頼の「解き放ち」理論が生まれます。信頼の「解き放ち」理論とは、信頼には(当時言われていた)関係強化の側面だけではなく、関係拡張(固定した関係から解き放ち、新しい相手との自発的な関係の形成に向かわせる)の側面がある点を強調する理論です。同理論を精緻にしていく中で、本書の中心的メッセージも生まれます。そして、それではどうすればいいのか。この点は、実は、読者に開かれています。
また、本書は一種の日本文化論でもあります。そのため、本書を読むことで、日本文化(日本社会)の筆者なりの見通しを1つ知ることもできます。1998年に書かれているため、今の日本とは状況(環境)が大きく変わっていますが、そのような状況変化に対応することの大切さを本書では説いていました。我々は本書の提言を時代遅れのものとできるのか、そうではないのか。今読み返しても、考えさせられるものがあります。
本書は基本的には筆者の社会心理学研究の成果をまとめたものです。しかし、非常に読みやすくできています。「研究の過程をなるべく「謎解き」としての側面を残したかたちで再構成するという方針」(p.12)で本書が書かれているからです。専門用語も出てきますが、それについては補足的に解説します。
皆さんのご参加を心よりお待ちしております。
第1回講義:2023年06月24日(土):20:00 - 21:30
イントロダクション:本書を読むための下準備 第1回講義では、以下の2点についてお話ししたいと考えています。
・本講義の進め方 ・山岸俊男流社会心理学と、その思想の(私なりの)エッセンス
講義は全体としてどのように進んでいくのかや、進めるうえでのお願い事項等についてまず説明します。
その後、『信頼の構造』を読む上での参考知識をご紹介したいと思います。この知識がなくとも本書は読めます。ただ、本書を読む際の見通しがよくなるかなと思います。
なお、第1回は本書を読んでくる必要はありません。読書は本講義後からスタートします。
第2回講義:2023年07月01日(土):20:00 - 21:30
3つのパラドックスと信頼の定義:序章、第1章、第2章(計53ページ)
第2回講義では、本書の鍵となる3つのパラドックスを押さえるとともに、そのパラドックスを解くために必須の「信頼の定義」を見ていきます。信頼の定義を押さえられれば、パラドックスのうち2つは解決します。ここでのポイントは、信頼と安心の違いです。
あと、時間があれば、社会的不確実性について雑談したいと思っています。この概念、相応の現象の見通しをよくしてくれる、とても素敵な概念です。
なお、本書は基本的にとても読みやすくできているので、本来であれば「解説」は不要かもしれません。ですので、皆さんからのご意見・ご質問があれば、そちらを大切にしたいと考えています。皆さんからの積極的なご意見・ご質問、お待ちしています。
第3回講義:2023年07月08日(土):20:00 - 21:30
信頼の「解き放ち」理論とはどのようなものか:第3章、第4章(計55ページ)
第3回講義では、本書の軸、信頼の「解き放ち」理論を押さえます。第4章は同理論に関わる実証的結果の説明ですので、どちらかというと、第3章の方が大事です。ですが、どういう研究から理論が導き出されたのか、という点がわかると理論の理解も深まると思います。実証的結果では心理学の専門的技術が使われていますので、本書で説明が足りないと思われる箇所は補足します。
なお、この回も、皆さんからの積極的なご意見・ご質問、お待ちしています。
第4回講義:2023年07月15日(土):20:00 - 21:30
信頼とコミットメント関係の形成:第5章(計38ページ)
第4回講義では、信頼の「解き放ち」理論をより直接的に検証することを目指した実証的結果の説明です。実験の内容と結果の説明に重点が置かれている章で、実験内容(実験に参加した人はどのようなことをしているのか)を想像しながら読むと、読みやすいと思います。ここも、技術的な部分がありますので、説明が足りないと思われる箇所は補足します。
なお、この回も、皆さんからの積極的なご意見・ご質問、お待ちしています。
第5回講義:2023年07月22日(土):20:00 - 21:30
開かれた社会の基盤としての社会的知性:第6章、終章(計54ページ)
第5回講義では、信頼の「解き放ち」理論にあるミッシング・リンク(欠落部分)を押さえます。同理論では(少なくとも)1つ大事な点が抜け落ちていますが、それは一体何なのか。そして、どうすれば埋まるのか。考えてみたいと思います。また、終章は、本書の中心的メッセージを少し離れて、裏メッセージについてです。裏メッセージを理解することで、表メッセージの深みも増すと思われます。
なお、この回も、皆さんからの積極的なご意見・ご質問、お待ちしています。
こんにちは。仲嶺真(なかみね・しん)と申します。心理学とはどういうものか、心とはどういうものか、恋愛とはどういうものか、について社会心理学の立場から考えています。
大学院に進学したのを社会心理学を始めた年だとすると、社会心理学を始めてからもう10年以上が経ちました。そして、いまさらながら気づいたことがあります。社会心理学の多くは「心と社会」について考えてこなかったのではないか、と。
そんな中で、山岸俊男は、「心と社会」について、社会心理学として実直に考えてきた数少ないひとりだったのではないかと思っています。山岸俊男は、社会心理学を北風の学問から太陽の学問へと転換させることを考えてきたと回顧しています(p.209)。それは、人々の頭の中身を調べることから始めるのではなく、誘因を調べることから始める社会心理学である、と。本書はその成果であり、その後の山岸俊男の基盤でもあります。
彼の「社会心理学を北風の学問から太陽の学問へと転換させること」には賛同する部分もありますが、批判的に考えざるをえないこともあります。ですが、いずれにせよ、本書は思考の種になる素晴らしい本であると思います。本書を読むことを通じて「心と社会」について皆さんと一緒に考えたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。