終了済み講義
本講義シリーズでは、フランスの数学者・物理学者であり、「最後の万能の天才」と称されるポアンカレの著書『科学と仮説』を題材に、5回にわたって皆さんと一緒に探求していきたいと思います。
ポアンカレは19世紀末に活躍し、知られているのはミレニアム懸賞問題のひとつであるポアンカレ予想ですが、それ以外にも天体力学の三体問題やカオス理論など、多くの分野で偉大な業績を残しています。特に、時間や空間に関しては相対性理論が創造される前から独自の考察を行っていました。
本書は一般向けに科学の考え方について書かれたものですが、その内容は非常に哲学的な示唆に富んでいます。講座では、本書において議論されている仮説の役割に焦点を当て、さまざまな例を取り上げながら掘り下げていきます。
取り上げる例は、執筆当時において最新のものでしたが、現代では古典とされるものとなっています。しかし、古典であるからといって容易なものではありません。現代の物理学や数学は、私たち一般人にとって直感とはかけ離れた話題を扱っているため、深い理解を得ることは非常に難しいものです。しかし、古典的なテーマを扱うことで、私たちの身近な事象にも応用できるため、深い洞察が可能となります。
本講座では、ちくま学芸文庫の『科学と仮説』をテキストとし、興味深いトピックを選び出し、わかりやすく解説します。また、それらの話題から生まれる議論を活発に行い、参加者の皆さんとともに科学の世界を一緒に探求していきたいと思います。
講義シリーズの概要: 講義回数:全5回 テキスト:ちくま学芸文庫『科学と仮説』 内容:科学の発展における仮説の役割についての議論、ポアンカレの業績と考察、参加者との議論など 予備知識:特に必要ないです。高校数学程度の知識があれば読み進めやすいかと思います。
各回の内容に関しては以下をご覧ください。
ぜひ、皆さんとともにポアンカレの思考を探求し、科学と仮説の世界に共に没頭しましょう。皆さんのご参加を心よりお待ちしております。
第1回講義:2023年08月03日(木):20:00 - 21:30
はじめに(p7-p13)
第一回講義では、『科学と仮説』を読んでいくための準備をします。 科学を題材とした啓発書を読む際に気を付けることに関して、説明します。 また、著者であるポアンカレの紹介を行います。生い立ちや主要な業績について簡単にご説明いたします。
第2回講義:2023年08月10日(木):20:00 - 21:30
第1部 数と大きさ(p16 - p53)
身近な数という概念をもとに、数学的推論の本質と創造性について学びます。例として「連続」とはどういうことか、それは経験とどういう風な関係があるのかについて考察します。数学って結局何を研究しているんだろう?ということについて考えをめぐらせてもらいたいと思います。このパートはカントの思想に関する知識があると理解しやすいかもしれません。
第3回講義:2023年08月17日(木):20:00 - 21:30
第2部 空間(p55 - p117)
空間を記述する学問である幾何学について学びます。特に非ユークリッド幾何学という学問について簡単に説明します。非ユークリッド幾何学の世界では三角形の内角の和が180度でないなど奇妙な現象が生じますが、これは実は現実世界をより良く記述していることが現代では判明しております。このパートは幾何学の原理が経験的事実でないことが強調されており、自分自身の空間に対する認識が崩されて衝撃を受ける方もいるかもしれません。なお、アインシュタインは、本パートをもって相対性理論の着想に至ったとも言われております。
第4回講義:2023年08月24日(木):20:00 - 21:30
第3部 力(p119 - p175)
私たちの身の回りの運動を記述する力学における経験と演繹の関係性について考察します。私たちが普段何気なく使っている力やエネルギーといった概念の哲学的側面についても触れます。物理学において定義と仮説がどのような役割を担っているかについて学びます。ここまでくると、我々の世界を記述するとされる科学がどのように形成されているかが理解できると思います。
第5回講義:2023年09月07日(木):20:00 - 21:30
第4部 自然(p178 - p298)
近代物理学における仮説の重要性や一般化の役割について議論します。特に実験と理論の関係性について学びます。こちらはかなり長いパートであり、物理学の基礎的な知識が必要とされるためかなり難解です。しかしながらここまでたどり着いた皆さんであれば、時間をかけてじっくり読み込めば必ず理解できると思います。講義では全部を説明するのではなく、興味のあるトピックを選別して私自身の経験も交えて仮説の役割についてお話したいと思います。。
私が本書に出会ったのは、大学生の頃でした。物理学を専攻していましたが、内容は難しく、一読して理解したつもりになっていました。しかし、研究の道に進んでから、再び本書を読み返したところ、その内容の思索の深さに感銘を覚えました。
特に感銘を受けたのは、次の言葉です。「すべてを疑うか、すべてを信じるかは、どちらも思考停止に等しい。」これは、情報の洪水に浸かり、何が正しいかわからない現代社会において、常に心に留めておかなければならない言葉だと思います。
本書では、どのように思索を進めるべきか、そして仮説がどのような役割を果たすかについて詳しく説明されています。例えば、「明日、雨が降る確率が高い」という確率について、どれだけ深く考察したことがありますか?ポアンカレは本書の30ページにわたって、この確率の意義について考察しています(p224-p254)。
この書籍は正直に言ってかなり難しいですが、だからこそ、読む価値があります。実際にこの書籍は、世界の偉人たちにも影響を与え、さまざまな発見が生まれました。例えば、若かりし頃のアインシュタインは本書を読んで相対性理論のアイデアを得たと言われています。また、著名な芸術家であるピカソもキュビズムを生み出す際に、ポアンカレの思想に大きく影響を受けたとされています。
皆さんが本書を読んでどのような感想を持つのか、興味があります。どのような分野で活躍されている方でも、必ず新たな視点や考え方を得ることができると思います。
私は実験物理学者として、目に見えない素粒子や原子核の世界の仕組みを解き明かすといった一風変わった仕事をしています。一般の方とは少し異なる考え方を持っていることは自他ともに認識しております。そのような人間が本書を読んでどのような考えを持つに至ったかについてもお話させていただければと思います。
参加していただく皆さんは、バラエティに富んだバックグラウンドを持つ方々だと思います。私たちは講師と学生の関係ではなく、お互いに学び合う場として共に時間を過ごすのです。私も皆さんから多くのことを学びたいと思っていますので、講義中にはぜひ積極的に意見や質問を投げかけていただければと思います。
楽しい議論と知識の交流ができることを心待ちにしています。それでは、皆さんとお会いできることを楽しみにしています!