開講予定の講義
この講義では、ジュリア・ブライアン゠ウィルソン『アートワーカーズ──制作と労働をめぐる芸術家たちの社会実践』(高橋沙也葉、長谷川新、松本理沙、武澤里映訳、フィルムアート社、2024年)の第一章、そして私が主に翻訳を担当した第三章を講読していきます。
本書は、ミニマルな作品によって「水平化」を目論んだカール・アンドレ、ブルーカラー労働者との同一化を夢想したロバート・モリス、批評や小説の執筆、キュレーションという「労働」を通してフェミニズムに接近したルーシー・リパード、そして情報を提示する作品によって制度批判を行ったハンス・ハーケという、1960年代のアメリカで自らを芸術労働者(アートワーカー)と定義し、社会へ働きかけようとした4人のアーティスト、批評家を取り上げた著作です。
本書は、芸術に関わるすべての行為を「労働」と捉えたアートワーカーたちが、芸術作品/仕事(アートワーク)の意味を拡張し、ベトナム戦争時代の社会不安に立ち向かう様を描き出します。1969年に設立された「アートワーカーズ連合」や、翌年に同連合から派生した「レイシズム、戦争、抑圧に抵抗するニューヨーク・アート・ストライキ」のアクティビズム的な熱を帯びた活動は、ミニマルアートやコンセプチュアルアートなど、制度としての芸術に異議を唱える動向と密接に関係しながら発展していきました。しかし、内部に多くの矛盾や葛藤を抱えたその活動は短命に終わってもいます。今回の講義では、第一章、第三章を講読することで、そうしたアートワーカーたちの活動をご紹介できればと思っています。
著者のジュリア・ブライアン゠ウィルソンは、コロンビア大学美術史・考古学部教授、ジェンダー・セクシュアリティ研究科教員で、芸術をめぐる労働の問題、フェミニズム・クィア理論、工芸史などの研究を行っています。本書でも、ブライアン=ウィルソンはジェンダー論に基づいた精緻な作品分析を展開しています。
ベトナム反戦運動を筆頭に、フェミニズム運動、ブラックパワー運動、ゲイ解放運動、大規模なストライキなど、政治的・社会的な運動が巻き起こった騒乱の1960–70年代アメリカ。こうした社会運動に関心がある方、アメリカ現代美術について知りたい方、アートと労働の問題やアーティストの経済状況について考えたい方、ジェンダーの問題に興味がある方など、様々な方に楽しんでいただける講義になると思います。
ぜひ、奮ってご参加ください!
第1回講義:2025年01月08日(水):20:00 - 21:30
第1回講義では、著者ブライアン=ウィルソンの紹介、『アートワーカーズ』の問題設定とその限界、本書が扱う1960年代アメリカの社会情勢、そして1960年代のアメリカ美術シーンについて、解説していきます。同時に、翻訳のプロセスについてもざっくばらんにお話しできればと思っています。
第2回講義:2025年01月15日(水):20:00 - 21:30
第2回講義では、第一章(35-71ページ)の内容を解説していきます。「アートワーカー」というアイデンティティや1969年に設立された「アートワーカーズ連合」の活動内容、そしてアメリカにおける「労働」をめぐる状況について確認することで、本書が中心的に扱う「アートワーカー」や「アートワーカーズ連合」の内実を理解することを目指します。
第3回講義:2025年01月22日(水):20:00 - 21:30
第3回講義では、第三章前半部(142-172ページ、「仕事/作品としての展覧会」から「プロセス」まで)を解説していきます。第三章で論じられるロバート・モリスや彼の個展「ロバート・モリス近作展」の紹介をした後に、順に本章で展開されている議論を確認します。特に、ブライアン=ウィルソンによるジェンダーの視点からの分析や、ビジュアルイメージの分析に焦点を絞ってお話する予定です。
第4回講義:2025年01月29日(水):20:00 - 21:30
第4回講義では、第三章後半部(172-194ページ、「デトロイトと建設労働者/ヘルメット集団」から「勤務時間中のモリス、勤務時間外のモリス」まで)を解説していきます。この講義では、モリスが同一化しようとした建設作業員のイメージや、その同一化の夢が崩壊していく様を、1970年にニューヨークで起こった「ヘルメット暴動」(戦争を支持する建設作業員と反戦を訴える学生との衝突)や、モリスが同年に行ったホイットニー美術館でのストライキを通して明らかにしていきます。
みなさん、こんにちは。講師の松本です。
しばらくthe five booksでの講義をお休みしている間に、博士号を取得して京都芸術大学の専任講師になりました。
また、博士論文の執筆と並行して、『アートワーカーズ』第三章の翻訳作業や出版準備も行っていました。目まぐるしい日々の中で出版された『アートワーカーズ』ですが、多くの方々のご協力によって、今日的な意義を持つ書籍になったと感じています。
特に本書には、解題執筆者による解題が各章に付されています。どの解題も非常に読みやすく、かつ読み応えのあるものですので、ぜひあわせてお楽しみください。
同時に、3月には『アートワーカーズ』出版記念イベントも開催しました。こちらのイベントのレポートも公開しておりますので、ご覧いただければと思います。
今回の講義では、出版に至るまでの裏話なども交えながら、楽しく進めていく予定です。
みなさまのご参加を心よりお待ちしております。