終了済み講義

AIの倫理学

『AIの倫理学』

M. クーケルバーク 著

23年11月22日(水) ~ 23年12月20日(水)

毎週水曜日 20:00 - 21:30

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講師: 八木 緑

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視聴期限:2026年12月20日

全5回講義

参加料金:8250円

最少開講人数:10名

講義概要

「人間はAIとどう付き合っていくべきか」と問われたら、どのように答えますか。この講義では、AI・ロボット哲学の第一人者であるマーク・クーケルバークの『AIの倫理学』を読み、この漠然とした問いへの考察の手がかりを得ることを目指します。

自動車の自動運転やスマートフォンの音声アシスタント、通販サイトのレコメンド機能など、AIを用いた技術は既に私たちの日常生活の中に広く浸透しています。最近では、特に「生成AI」が注目されています。対話型AI「Chat GPT」は、手軽に質問することができ、自然な文章で即座に返答してくれるとあって、公開されるやいなや瞬く間に人気を得ました。AIは単なる便利なツールとしてだけでなく、いわば「新しいおもちゃ」として受け入れられているようにも思われます。

その一方で、AIの活用をめぐって新たな問題も生じています。知的財産権の侵害、偽の動画を作成するディープフェイク技術、バイアスを含んだ情報を学習することで差別を助長する可能性など……。AIの問題は多岐に渡り、社会のさまざまな側面に影響を及ぼしています。このような状況を受けて、EUでは「AI法案」が採択され、日本でも内閣府が専門の会合を開き、首相が開発者向けの規範策定に取り組む方針を発表するなど、各国でAIへの対策が進められています。

しかし、具体的な倫理問題に加え、開発・利用のルールや法律の整備ではどうにも解決できなさそうな問題にも私たちは直面しています。例えばそれは、私たちの自己理解や存在意義は今後どう変わっていくのか、といった問題です。

自分で考えることや創造することは、一般的に人間の特権であるかのように思われがちです。しかし、AIツールの性能はますます向上し、AI作品がアートコンテストで優勝するという事態も起きています。そのような時代に、私たちが苦労してレポートや論文を書き、こまめに辞書を引いて外国語を学び、長い年月をかけて芸術作品を仕上げるという作業が、どこか虚しく感じられるのも無理はありません。

AIは人間に何をもたらすのか。クーケルバークは本書の狙いを「広い意味でAIがはらむ倫理的な諸問題に関する適切な概念を与えること」と定めています。そのために彼は、より現実的で切迫した社会問題のみならず、人間とは何かという伝統的な哲学の問題にも論及しています。AI倫理学はいかにも現代的な分野ですが、これまでの哲学の歴史を振り返ることで、いっそう充実した議論ができる場でもあると言えるでしょう。

この講義を通して、皆さまと一緒に現代の問題を考えると同時に、古典や歴史を学ぶ意味を再認識できればと思います。新たな哲学書や文学書に挑戦するきっかけにもなるような講義にしたいと考えています。ご参加お待ちしております!

各講義の概要

第1回講義:2023年11月22日(水):20:00 - 21:30

イントロダクション / 『AIの倫理学』の問題設定(第1章): 今回のテキストを読み進めていくための準備として、導入部にあたる第1章を読み、本書で扱われているテーマを整理します。また、本書の議論と関連する最近のニュースや話題等を紹介しながら、AI倫理学が私たちの生活とどのような接点をもつかについてもお話しする予定です。なお初回から早速本文に入りますが、事前に読んでいただく必要はありません(もちろんあらかじめ読んでいただいても構いません。第1章をお読みいただければ、講義内容にもスムーズに入っていただけると思います)。

第2回講義:2023年11月29日(水):20:00 - 21:30

人間とAI(第2〜4章): 「AIは人間の知能を凌駕するのか」という問題をめぐり、スーパーインテリジェンス、トランスヒューマニズム、シンギュラリティといった考えについて見ていきます。これらの思想と、クーケルバークが指摘する「AIに対する過大視」との関係を見ながら、AIを中心とした議論の背景に人間への問いが潜んでいることを確認します。また、人間への問いに関する哲学の歴史についても触れ、必要に応じて補足します。

第3回講義:2023年12月06日(水):20:00 - 21:30

AIとは何か(第5〜7章): 技術としてのAIについて理解し、等身大的なAI像を共有します。それから、AIとその応用に関して生じている具体的で実践的な問題にどのようなものがあるかを見ていきます。また、AIがこれまでの技術と異なる点、AIを単なる道具や手段と見なすことが難しい理由について見た上で、AIに特有の倫理的問題があることを確認します。

第4回講義:2023年12月13日(水):20:00 - 21:30

AIの倫理的問題(第8〜9章): AIが「人間的」な振る舞いをすることによって生まれる倫理的問題、特に「責任」という問題についてのクーケルバークの説明を読みます。人間が意思決定するプロセスにAIが入り込むことで道徳的責任の問われ方はどのように変わるのか、またそもそも責任能力をもつということはどういうことなのか、といった問題について詳しく見ていきます。

第5回講義:2023年12月20日(水):20:00 - 21:30

AIの倫理的問題への対策(第10〜12章): 第3回と第4回を経て明らかになってきたAIの倫理的問題に対し、どのような対処の仕方がありうるかを、本書の中に挙げられている具体的な政策例や、最近の国内外の事例に即しつつ考えます。完成され、使用された技術に後から対応するのではなく、問題が起こらないようにする予防的観点からの取り組みについても検討し、最後に利用者の立場から私たちは何をすべきかという問題を考えます。

講師からのメッセージ

こんにちは。関西学院大学でイマヌエル・カント(Immanuel Kant, 1724-1804)の思想を中心に哲学を研究している八木緑(やぎ・みどり)と申します。これまでカントの『永遠平和のために』、『判断力批判』、『啓蒙とは何か』の講義を担当させていただきました。今回も参加者の皆さまと一緒にいろいろな気づきを得ながら、哲学の面白さを共有していきたいと考えています。

これまでのシラバスにも書いてきたこと、また大学の講義でも学生さんたちによく言っていることのほとんど繰り返しになりますが、私にとっての哲学とは「よく分からないもの」です。以前は専門外の友人に哲学に対するネガティブな意見を言われて、ショックを受けたり落ち込んだりして、かと言ってろくに反論もできませんでした。しかし最近になってようやく、「哲学の良さは、それぞれの人が哲学してみないと分からない」ということに気づきました。拍子抜けするような答えかもしれませんが、哲学とはそういう学問であり、まさしくそこに良さがあるのだと思います。その良さに気づくには、哲学書に向き合い、人と議論し、時間をかけて思考を続ける必要があるかもしれません。確かにそれは楽なことではありませんが、決して無駄ではないと思います。皆さまの「哲学ライフ」を豊かにするお手伝いが少しでもできれば幸いです。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。