開講予定の講義
本講義では、E.H.カー『歴史とは何か』の講読(全四回)を通して、自らの頭でものを考える力の基盤となる「歴史学的思考」を習得することを目指します。
「歴史の物語り方をメタ的に捉える思考」、それこそが「歴史学的思考」です。
もしかしたら、「歴史学的思考など無くても、自分の頭でものを考えることはできる」……そう考えている方は、少なくないかもしれません。
ですが、自分の頭でものを考えるためには、「歴史学的思考」を身につける必要があります。
私たちの社会には、「過去に関する情報」で満ち溢れています。「あの国は、どうやら昔は○○だったらしい」、「あの人は、昔○○だったらしい」……
そのとき、「過去についての主観的な情報」に踊らされるほど、困ったことはありません。都合のいいように「過去」の物語を作られてしまったら、こちらはその物語に当てはまる仕方でしかものを考えることができなくなってしまいます。
「過去についての物語」、それは言うなれば「歴史」です。そして、偏った歴史を信じ込まされて困ってしまうのは、いつだって私たちです。
ですが、どうすれば「歴史」の偏りに自分で気が付くことができるのでしょうか?
また、「歴史」の偏りを小さくすることなどできるのでしょうか?
できるとしたら、いったいどうやって?
そもそも、歴史の客観性とは、いったい何なのか?
こうした根本問題に真正面から取り組んでいるのが、現代歴史哲学の入門書である『歴史とは何か』なのです。
不朽の名著である『歴史とは何か』と共に、「歴史学的思考」を育てるためのレッスンを受けてみませんか?
次のような方々に、本講義はオススメです。
・伝説的な著作と名高い『歴史とは何か』のエッセンスを知りたい。
・「現代歴史哲学」についての基本的な理解を獲得したい。
・自分の頭でものを考えるための「歴史学的思考」を磨きたい。
みなさまの積極的な参加をお待ちしております。
(※『歴史とは何か』は、1962年の新書版と、2022年の新版の二つの翻訳が出ています。どちらを読んでいただいても問題ありませんが、本講義では読みやすい新版の翻訳を適宜引用していきたいと思います。)
(※新版には付録として「E.H.カー文書より」および「自叙伝」がありますが、こちらは読んでいただかなくても問題ありません。)
第1回講義:2025年02月20日(木):20:00 - 21:30
まずは、『歴史とは何か』をより効果的に精読するための準備段階として、「歴史の哲学」という主題に含まれた哲学の難問に関して解説をしてまいりたいと思います。また、初回講義においては、「言語論的転回(linguistic turn)」および「歴史の物語論(narrative theory of history)」と呼ばれる議論に焦点を当てて解説を行います。(※初回ではポール・リクールの名著『時間と物語』における歴史哲学の議論をベースに講義を進行する予定です。)
第2回講義:2025年02月27日(木):20:00 - 21:30
第二回から、実際に『歴史とは何か』を読み進めてまいります。まずは第一章「歴史家とその事実」および第二章「社会と個人」の講義を行います。あらかじめ述べておきますと、E. H. カーは「過去の事実」=「歴史」という議論を展開しておりません。「歴史」とは、〈それとは別の何か〉なのです。それでは、果たして「歴史」とは一体何なのでしょうか? そして、なぜカーはそのような着想を抱くに至ったのでしょうか?本講義においては、単にE. H. カーの議論の解説に留まるのではなく、カーの議論が立脚している前提を、現代哲学の見地から建設的に批判してまいりたいと思います。そのことで、本講義においてしか体得できない『歴史とは何か』の読書体験を得ることができると思われます。
第3回講義:2025年03月06日(木):20:00 - 21:30
第三回においては、『歴史とは何か』の第三章「歴史・科学・倫理」および第四章「歴史における因果連関」の講義を行います。第三章において問われているのは、「歴史学は科学の一部か?」という問いです。そして第四章において問われているのは、「因果関係と意志とはいかなる関係にあるのか?」という問いです。
第4回講義:2025年03月13日(木):20:00 - 21:30
第四回においては、『歴史とは何か』の第五章「進歩としての歴史」および第六章「地平の広がり」の講義を行います。極めて大きな普遍性を有している第一章「歴史家とその事実」および第二章「社会と個人」とは異なり、第五章・第六章は、今日においては大きな「時代的制約」を受けてしまっている章であるように見えるかもしれません。E. H. カーの時代と私たちの時代の間には、大きな隔たりが存在しています。ですが、そのような議論の中においても、やはり21世紀において受け継がれるべき卓越した洞察がいくつも存在するのは事実です。ですので私たちは、いったい何をカーの議論から継承し、何をカーの議論において批判すべきなのか――そうした点を、丁寧に辿ってまいりたいと思います。それこそが、E. H. カーが望んだ「対話」を成就させる契機にも繋がるでしょう。私たちは――今から約六十年前に行われたケンブリッジ大学の連続講演の受講者たちと同じように――E. H. カーとの「対話」の場に参席することになります。そしてそれは、紛れもなく、「古典」を介した思想家との〈終わりなき対話〉に他ならないのです。
はじめまして。東京大学で哲学の研究を行っている山野弘樹と申します。
普段は「現代フランス哲学」と呼ばれる領域(とりわけポール・リクール(Paul Ricœur, 1913 - 2005))の研究を行っているのですが、「より多くの方々に哲学の〈意義〉と〈魅力〉を知ってもらいたい」という理念のもと、かつて一般の方向けの哲学系イベント(オンライン)も数多く主催しておりました。
(累計2000名以上の方々にご参加していただきました。)
私は大学時代に『読書について』を読んだことをきっかけに、哲学の世界へと足を踏み入れました。それ以降、〈知の巨人たち〉の哲学書を数多く読み通すことを通して、高度な「論理的思考」や「批判的精読」の技法を獲得することができました。
私は「The Five Books」の講義において、これまで東京大学で体得してきた〈読書法〉および〈哲学的思考法〉を、分かりやすい言葉で受講者の皆さまにご提示したいと思います。また、「これまで哲学書を読んだ経験なんて一度もない」という方でも安心して付いてくることができるように、初学者目線の授業作りを丁寧に行ってまいります。
日々の生活を変えるための、そしてこれからの人生を変えるための〈メタ思考能力〉を向上させたいすべての方(中高生・社会人・シニア世代の方)のご参加を、心よりお待ちしております。
人文学の知の技法(「哲学的思考法」)を、共に獲得してまいりましょう。