終了済み講義

人倫の形而上学の基礎づけ

『人倫の形而上学の基礎づけ』

イマヌエル・カント 著

24年3月4日(月) ~ 24年4月1日(月)

毎週月曜日 20:00 - 21:30

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講師: 八木 緑

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視聴期限:2027年4月1日

全5回講義

参加料金:8250円

最少開講人数:10名

講義概要

この講義では、イマヌエル・カント(1724-1804)の『人倫の形而上学の基礎づけ』(1785年)という著作を扱います。「人倫」も「形而上学」も、日常生活で頻繁に触れられるとは言いがたい言葉ですが、「人倫」とは人の倫(みち)、つまり人間の道徳に関する事柄を意味します。しかし、その「形而上学」とは何を意味するのか。この著作は「基礎づけ」と題されており、人倫の形而上学なるものについて何か基本的なことを説いているらしい……と推測できるわけですが、内容はなかなか難解です。主張が読者に伝わるようにカントも随所に具体例を挙げるなど工夫してはいるのですが、独自の概念が盛り込まれた文章をスムーズに読み進めるのはやはり容易ではありません。

そこで、本講義では全5回にわたって『人倫の形而上学の基礎づけ』(以下、『基礎づけ』と省略します)を一章ずつ紐解いていきます。カントの主著として最も有名なのは『純粋理性批判』であり、ドイツ語版の全集では800ページを超えます。それに比べれば『基礎づけ』はずっとコンパクトで、道徳という私たち人間の振る舞いに関わるテーマを論じているとあって親しみやすい印象を抱かれる方も多いでしょう。上にも書いたように、確かに難解な著作ではあるものの、「よい行為とは何か」や「幸せのための行為はよいと言えるのか」といった素朴にして根本的な問いへのカントなりの答えがそこには示されています。

ところで、今年はちょうどカント生誕300年という節目の年です。カントが生涯を過ごした旧称ケーニヒスベルク(現・カリーニングラード)は、ロシアの領地でありながらNATO加盟国に面した飛び地であり、前哨基地として戦略的に重要かつ敏感な地域と言われています。世界に目を向けると、混迷しているのはウクライナ情勢ばかりではなく、カントが晩年の著作『永遠平和のために』で訴えたような国際秩序とは程遠い状況が続いています。『永遠平和のために』は1795年、『基礎づけ』の10年後に公刊されました。その内容は『基礎づけ』等を通して築かれた彼の倫理思想を踏まえています。今回の講義が、そうしたカントの他の著作、あるいはまた別の哲学者の著作に触れるきっかけとなれば幸いです。

*本講義では、中公クラシックス版の『プロレゴーメナ・人倫の形而上学の基礎づけ』(土岐邦夫・観山雪陽・野田又夫訳)を使用します。他の邦訳書をお持ちの方は、そちらを使ってご参加いただいても構いません。ですが、講義内で用いる訳語等は中公クラシックス版に準じますので、あらかじめご了承ください。

各講義の概要

第1回講義:2024年03月04日(月):20:00 - 21:30

イントロダクション:カントの生涯や主要な著作とその内容、エピソードや哲学史における位置づけなどを簡単に紹介します。その後、『基礎づけ』という著作について、他の哲学者からカントが受けた影響や、その後の反響といった観点から概要を述べます。初回は本文の内容にはあまり立ち入らず、目次を見ながら全体の構成を確認し、そして序言の最初の数段落を読んで『人倫の形而上学の基礎づけ』というタイトルの意味を考えます。

第2回講義:2024年03月11日(月):20:00 - 21:30

序言と第一章「通常の道徳的理性認識から哲学的な道徳的理性認識への移り行き」:まずは序言を通して、この著作におけるカントの狙いを共有します。『基礎づけ』は人間の行為とその善悪をテーマとしていますが、カントが目指す道徳哲学はかなり独特とも言えるものです。そして次に第一章を読みます。ここでカントは「常識」のレベルから「哲学」のレベルへと議論の場を移します。カントの道徳哲学の「独特さ」の理由が、この第一章からある程度見えてくるはずです。

第3回講義:2024年03月18日(月):20:00 - 21:30

第二章「通俗的道徳哲学から人倫の形而上学への移り行き」前半:『基礎づけ』の中心部分に入っていきます。カントは「義務」を道徳の原理として重視しますが、それは「(〜す)べし」という表現をもたねばならないと言います。しかもその「べし」は、「〜ならば」という条件を前提としてはいけないとカントは強調します。これが有名な「定言(的)命法」の考え方です。第二章の前半を読み、カントの義務理論の要点を掴んでいきます。

第4回講義:2024年03月25日(月):20:00 - 21:30

第二章「通俗的道徳哲学から人倫の形而上学への移り行き」後半:これまでの箇所では、カントの議論において道徳法則の「普遍性」が鍵となるということを見てきました。第二章の後半では、さらに「目的」と「自律」というキーワードが登場します。「ただひとつ」の形しかないと言われていた定言的命法ですが、別の公式化もできることが示唆されます。

第5回講義:2024年04月01日(月):20:00 - 21:30

第三章「人倫の形而上学から純粋実践理性批判への移り行き」:第二章では、「義務」という言葉から私たちが通常想像するようなものとはまったく異なる発想が「自律」という概念によって示されました。続く第三章は「自由の概念は意志の自律の説明のための鍵である」と題された節から始まります。この節題が示す通り、自律的な行為を論ずるには自由の概念が不可欠です。カントが自由の論証に挑む最終章は、『基礎づけ』の中で最も分かりにくい箇所かもしれません。講義では必要に応じて『純粋理性批判』や『実践理性批判』からも引用しながら、自由がカントの道徳哲学にとってきわめて重要な概念であることを確認します。

講師からのメッセージ

こんにちは。関西学院大学でイマヌエル・カントの思想を中心に哲学を研究している八木緑(やぎ・みどり)と申します。カントの著作では、これまで『永遠平和のために』、『判断力批判』、『啓蒙とは何か』の講義を担当させていただきました。最近の講義では「AI倫理学」という非常に現代的なテーマを扱いましたが、今回は再び古典に立ち返ります。また参加者の皆さまと一緒にいろいろな気づきを得ながら、哲学の面白さを共有していきたいと考えています。

これまでのシラバスにも書いてきたこと、また大学の講義でも学生さんたちによく言っていることのほとんど繰り返しになりますが、私にとっての哲学とは「よく分からないもの」です。以前は専門外の友人に哲学に対するネガティブな意見を言われ、ショックを受けたり落ち込んだりして、かと言ってろくに反論もできませんでした。しかし最近になってようやく気づいたのは、「哲学の良さは、それぞれの人が哲学してみないと分からない」ということです。拍子抜けするような答えかもしれませんが、哲学とはそういう学問であり、まさしくそこに良さがあるのだと思います。その良さに気づくには、哲学書に向き合い、人と議論し、時間をかけて思考を続ける必要があるかもしれません。確かにそれは楽なことではありませんが、決して無駄ではないと思います。皆さまの「哲学ライフ」を豊かにするお手伝いが少しでもできれば幸いです。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。