終了済み講義

VTuberの哲学

『VTuberの哲学』

山野 弘樹 著

24年4月11日(木) ~ 24年5月16日(木)

毎週木曜日 20:00 - 21:30

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講師: 山野 弘樹

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視聴期限:2027年5月16日

全6回講義

参加料金:9900円

最少開講人数:10名

講義概要

本講義の目的は、2024年3月に発売された著作『VTuberの哲学』(春秋社)を講読することを通して、「哲学的思考力」のスキルを実践的に高めることです。また、「VTuber文化」を考察の素材とすることで、最新の文化現象を哲学的に分析するための視点や方法論を習得することを目指します。

「キズナアイ」という存在を原点にして、2016年12月から私たちの文化において徐々に根付き始めた最新の文化コンテンツがあります。それが「バーチャルYouTuber(VTuber)」です。

黎明期を経て、2020〜2021年にかけて〈変容〉と〈拡大〉を迎えたこの文化は、2022年6月にVTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR株式会社が、そして2023年3月にVTuberグループ「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社が東京証券取引所グロース市場に上場することによって、社会的にもビジネス的にも無視できない影響力を持つ文化であることが示されました。

今や「VTuber文化」の市場規模は800億円とも推計されており、二大VTuberグループである「にじさんじ」と「ホロライブプロダクション」だけで、YouTubeのチャンネル登録者数が百万人を超えているVTuberが44名もいる状況です(2024年3月現在)。また、昨今では著名なタレントやアーティストたちと並んで、バーチャルな姿で活躍するVTuberの数も増えています(例えば2023年の年末では宝鐘マリンさんがVTuberとして初めて「FNS歌謡祭」に出場されました)。

こうした状況から分かることは、私たちの社会において「VTuber文化」が少しずつ定着し始めているのみならず、決して無視し得ない文化的・経済的インパクトを私たちの社会に与えつつあるということです。

本講義においては、こうした最新の文化コンテンツである「VTuber文化」を題材としつつ、自分の頭でものを考えるために必要な「哲学的思考力」を養成することを目指します。

また、「なぜVTuberなのか?」(なぜあえて「VTuber文化」をテーマとして取り上げるのが?)という問いに対しても、明確な理由があります。

それは、VTuberと呼ばれる存在者たちが、単にリアル(実在的)であるとも、単にフィクショナル(虚構的)であるとも言えない、非常に入り組んだ存在のあり方をしているからです。

VTuberは、現実世界で物質的な身体を持つ配信者とも、アニメなどの虚構的なキャラクターとも同一視できない、独特な存在です。これまでの文化の様々な要素を受け継ぐことで成立しつつも、既存の「ものの見方」では適切に判断することのできない複雑な文化事象、それがVTuberです。

言わば「VTuber」とは、哲学的思考力を訓練するための「問いの宝庫」に他ならないのです。

ここに、「VTuber文化の分析を通して哲学的思考力を養成する」という、他に類を見ない講義内容を実践できる理由があります。

「自ら問いを見つけ、問題の本質を見抜き、思考内容を明晰に言語化できる力」——そうした思考力を受講者の皆さまが獲得できるように本講義を設計します。

「にじさんじ」や「ホロライブプロダクション」等、実際のVTuberの事例を多数参照しながら、初学者の方でもついてこられるような平易な語り口で講義をデザインします。

講義のアーカイブ動画は何度でもご視聴いただけますので、講義期間終了後も、時間をかけて復習することが可能です。

本講義は次のような方におすすめです。


・自分の頭でものを考えるために必要な「哲学的思考力」を身に付けたい。
・生きた最新の文化を哲学的に分析するための視座や方法論を習得したい。
・「VTuber」をテーマに論文やレポートなどを書きたい。
・「VTuberの哲学」と呼ばれる最新の学術研究の成果を学びたい。
・「推し」のVTuberの魅力について改めて考えてみたい。


みなさまのご参加をお待ちしております。
(※90分の講義1コマ=2200円×全6回という計算で、合計で13200円の受講料が相場になるのですが、今回は『VTuberの哲学』刊行記念の意味も込めて、今回に限り、全6回の講義を9900円でお申し込みいただけます。)

各講義の概要

第1回講義:2024年04月11日(木):20:00 - 21:30

第一回講義では、本講義全体のイントロダクションとして次の二つの問いを扱います。一つは、「そもそも哲学とは何か?(哲学の固有性とは何か?)」という問いであり、もう一つが「「VTuber文化」とはいかなる文化か?」という問いです。

「哲学にも馴染みがあり、VTuber文化にも日常的に親しんでいる」という方は決して多くないでしょう。そこで第一回講義においては、「哲学」という学問の営みや、「VTuber文化」におけるコンテンツの多様性について解説を行います。

第2回講義:2024年04月18日(木):20:00 - 21:30

第二回講義では、『VTuberの哲学』第一章「VTuberの類型論と制度的存在者説」を扱います。

今日の「VTuber文化」において、「VTuber」と呼ばれる存在者の種類はあまりに多様化しています。そこでまず本講義においてメインで取り上げる「VTuber」の範囲を限定するために、VTuberの類型論を論じます。

また、「非還元タイプのVTuber」を論じる際に、哲学的に四つの立場が想定可能であることを示し、その中でも、第四の立場「制度的存在者説」の妥当性と、本書がその立場を採用する理由について論じます。

第二回講義においては、アメリカの哲学者ジョン・サールやフランスの哲学者ポール・リクールの議論を参照しながら、複雑な文化事象を整理し、それらを論じるための諸理論の妥当性を比較・検討するための視座を学ぶことを目指します。

第3回講義:2024年04月25日(木):20:00 - 21:30

第三回講義では、『VTuberの哲学』第二章「VTuberの身体性の問題」を扱います。

いかに「黎明期」から変化を被ったとはいえ、今日の「VTuber文化」においても「モーションキャプチャー」によって現実世界の身体と2D/3DCGのモデル(アバター)が連動するという契機は重要視されています。ですが、それと同時に、今日のVTuberたちは、実写の身体を提示したり、モデル(アバター)を入れ替えて配信を行なったりします。こうした配信実践を踏まえた時、私たちは「VTuberの身体性」をいかに考えれば良いのでしょうか?

第三回講義においては、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「デュナミス」および「エネルゲイア」の概念を導入することを通して、存在するもののあり方を多層的に捉えるための視座を獲得することを目指します。

第4回講義:2024年05月02日(木):20:00 - 21:30

第四回講義では、『VTuberの哲学』第三章「VTuberのフィクション性と非フィクション性」を扱います。

「VTuberは実在的(リアル)な存在である」というのが『VTuberの哲学』において一貫して主張されているテーゼですが、こうした主張には一定の困難が伴います。例えば、不老不死のVTuberがいたとしたら、「この世に不老不死の存在が実在した」ということになるのでしょうか? また、活動を開始してから何年も「高校2年生」を続けているVTuberがいたとしたら、その人は「何年も留年している」ということになるのでしょうか? こうしたVTuberの性質をいかに解釈するのかという点が、第四回講義の課題です。

第四回講義においては、「フィクションの哲学」と呼ばれる分野の知見を援用しつつ、「フィクション」という概念が持っているあいまいな点を整理すると共に、VTuberのフィクション性と実在性を明確に区別するための視座を獲得することを目指します。

第5回講義:2024年05月09日(木):20:00 - 21:30

第五回講義では、『VTuberの哲学』第四章「VTuberの表象の二次元/三次元性」を扱います。

VTuberの草分け的存在であるキズナアイさんは、かつて最初に投稿された動画の中で「私、実は......二次元なんです! あれ? 3Dだから......三次元?」と仰っていました。VTuberは、ある意味で「二次元」的な存在者であり、ある意味で「三次元」的な存在者です。ですが、それはいかなる意味においてそうなのでしょうか? 単に「二次元」とも、「三次元」とも、ましてや「2.5次元」とも捉えることができない「VTuber」という不思議な存在を、伝統的な美術史の様式論の観点から分析していきます。

第五回講義においては、美術史のアプローチやアメリカの哲学者ケンダル・ウォルトンの議論を用いながら、VTuberの配信画面を分析するための方法論を習得することを目指します。

第6回講義:2024年05月16日(木):20:00 - 21:30

第六回講義では、『VTuberの哲学』第五章「生きた芸術作品としてのVTuber」を扱います。

VTuberとは不思議な存在です。ある側面において、VTuberとは多彩な配信実践に取り組む「芸術家」の如き存在です。ですが別の側面においては、VTuberとはその一挙一動が「作品」化されるような存在でもあります。言わば、VTuberとは自らによって自らを制作する「生きた芸術作品」に他ならないのです。こうした芸術作品としてのVTuberのあり方を分析するのが、第六回講義の課題です。

第六回講義においては、今日のVTuber文化を彩るVTuberたちを「生きた芸術作品」として捉え、そうした芸術作品と鑑賞者(ファン)の相互作用を分析するための視座を獲得することを目指します。

講師からのメッセージ

はじめまして。東京大学で哲学の研究を行っている山野弘樹と申します。

普段は「現代フランス哲学」と呼ばれる領域(とりわけポール・リクール(Paul Ricœur, 1913 - 2005)という哲学者)の研究を行っているのですが、「より多くの方々に哲学の〈意義〉と〈魅力〉を知ってもらいたい」という理念のもと、一般の方向けの哲学系イベント(オンライン)も数多く主催しております。
(すでに累計2000名以上の方々にご参加していただいております。)

私は大学時代に『読書について』を読んだことをきっかけに、哲学の世界へと足を踏み入れました。それ以降、〈知の巨人たち〉の哲学書を数多く読破することを通して、高度な「論理的思考」や「批判的精読」の技法を獲得することができました。

私は「The Five Books」の講義において、これまで東京大学で体得してきた〈読書法〉および〈哲学的思考法〉を、分かりやすい言葉で受講者の皆さまにご提示したいと思います。また、「これまで哲学書を読んだ経験なんて一度もない」という方でも安心して付いてくることができるように、初学者目線の授業作りを丁寧に行ってまいります。

日々の生活を変えるための、そしてこれからの人生を変えるための〈メタ思考能力〉を向上させたいすべての方(中高生・社会人・シニア世代の方)のご参加を、心よりお待ちしております。

人文学の知の技法(「哲学的思考法」)を、共に獲得してまいりましょう。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。