終了済み講義
1646年、三十年戦争の最中、ドイツ・ザクセン地方の中心地ライプツィヒで、一人の天才哲学者が彗星の如く誕生しました。彼こそ、のちに微分法を打ち立て、計算機の先駆と評される二進法の重要性に着目し、ヴェルフェン家史を調査・執筆し、ハルツ鉱山計画に参加して独自のポンプを考案し、教会再合同のためにカトリックとプロテスタントの間を奔走し、さまざまな政治家や学者たちと交流し、そしてそれまで誰一人辿り着かなかった「モナドロジー」と呼ばれることとなる哲学に至った人物、ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツそのひとです。その哲学は現代もまだその新しさを失っておらず、多くの思想家や文筆家、芸術家、他の分野の学者たちにも参照され続けています(例えば最近だと「アクターネットワーク理論」という社会学理論を提唱したブリュノ・ラトゥールへの影響などが知られています)。
今回の講義では、ライプニッツ哲学の全体像を眺望できる著作『モナドロジー』を中心的に扱います。ですが、それだけではありません。現在、岩波文庫で手に入る版には関連著作が多数収録されており、それらも『モナドロジー』を読む上ではとても有益です。そこで、この講義では他の著作にも目を配りつつ『モナドロジー』を読み進めていくという方針をとります。
『モナドロジー』自体は全部で90の短い節から構成されています。その凝縮された内容を読み解く上で、岩波文庫に一緒に収録されている『理性に基づく自然と恩寵の原理』や、ゾフィー・シャルロッテ宛書簡などの論文や手紙は、ときにわかりやすい言葉に言い換えてくれていたり、ときに詳細に内容を語ってくれていたりと、皆さんの読解を大いに助けてくれることでしょう。
本格的かつ壮大な哲学を全5回の講義で扱うため、ハイレベルな内容も含むことにはなりますが、初めて哲学書を読むという受講者の方々にも配慮しつつ丁寧に進行いたします。また講義外の時間もSlackを通して、みなさまの読書をきっちりサポートいたします。
さあ、ライプニッツが描いた「永遠の哲学(philosophia perennis)」をともに読み解きましょう。みなさんのご参加をお待ちしております。
※今回の講義では2019年に刊行された岩波文庫の『モナドロジー』(谷川多佳子・岡部英男訳)に収録された複数の著作を扱います。基本的にはこちらの翻訳書をご用意ください。同じ岩波文庫の以前の版『単子論』(河野与一訳)には収録されていない書簡なども扱います。
第1回講義:2023年01月16日(月):20:00 - 21:30
初回の講義では、ライプニッツの生涯と同時代の哲学についての紹介を行います。また、『モナドロジー』から約20年前に書かれた論文「実体の本性と実体間の交渉ならびに魂と身体のあいだにある結合についての新説」(岩波文庫 95-114頁)を簡単に紹介します。モナドロジーの前提となっている予定調和説の考え方について学びましょう。
第2回講義:2023年01月23日(月):20:00 - 21:30
「モナドについて」と題して『モナドロジー』第1節から第20節と、「理性に基づく自然と恩寵の原理」第1節から第2節、「ダンジクール宛書簡」(岩波文庫 182-185頁)を扱います。 さあ実際にライプニッツ自身が書いたものを読んでいきましょう。『モナドロジー』を開くと、冒頭からモナドの説明が始まります。ライプニッツ哲学にとって最も基礎的でありながら最も難しい概念であるモナド、この講義ではその重要な特徴をみてゆくことになります。
第3回講義:2023年01月30日(月):20:00 - 21:30
「魂と真理について」と題して『モナドロジー』第21節から第37節、「理性に基づく自然と恩寵の原理」第3節から第8節、「コスト宛書簡」(岩波文庫 163–171頁)を扱います。 モナドが単なる事物の基礎というよりもむしろ意識の源としてのものであることが少しずつ明らかになってゆきます。さらに、そうした意識の働きのうちで知識や真理といったものがどのように扱われることになるのかということも、ここで確認しておきましょう。
第4回講義:2023年02月06日(月):20:00 - 21:30
「神と最善世界について」と題して『モナドロジー』第38節から第60節、「理性に基づく自然と恩寵の原理」第9節から第13節を扱います。 私たちに身近な事物や自分たち自身の心理学的働きの記述から出発した本書は、ついに神や世界全体の記述に移ってゆきます。17世紀哲学の多くがそうであるように、ライプニッツもまた「神」という概念に重要な働きを与えて、この世界の説明原理のうちに組み込んでいきます。
第5回講義:2023年02月13日(月):20:00 - 21:30
「神と最善世界について」と題して『モナドロジー』第38節から第60節、「理性に基づく自然と恩寵の原理」第9節から第13節を扱います。 私たちに身近な事物や自分たち自身の心理学的働きの記述から出発した本書は、ついに神や世界全体の記述に移ってゆきます。17世紀哲学の多くがそうであるように、ライプニッツもまた「神」という概念に重要な働きを与えて、この世界の説明原理のうちに組み込んでいきます。
こんにちは。東京大学大学院で哲学を研究している三浦隼暉(みうらじゅんき)です。普段は大学講師として学生たちに哲学を教えたりしています。The Five Books での講義も今回の『モナドロジー』で10回目となりました。ライプニッツ哲学は私の専門分野でもあるので、みなさんと一緒に読むのを楽しみにしています。 私が目指しているのは「哲学は留保なしに愉しい」と感じてもらえるような講義を作ることです。一緒に哲学書を紐解くことで、そのような愉しさを経験するお手伝いができればと考えています。最後に、私の恩師が残した言葉を送ります。「本は一人で読むものですが、ときには窓を開けて一緒に哲学をしましょう」。