終了済み講義
この講義では、西洋哲学で扱われてきた諸問題をみなさんと一緒に考えていきます。
哲学は、私たちが生きていくなかで、土台や前提となっている基本的な物事やものの見方が何であるかを合理的に考える営みです。この講義では、哲学が扱う基本的な物事のなかから、知覚・感覚(見る、聞く、触る、味わう、嗅ぐ)や思考(考える、思い出す、想像する)を中心的に取り上げます。
たとえば、目の前の机を見るということは、脳のなかに机のコピーが生まれることなのか。何かを思い出したり想像したりすることは、脳内で映像や音を流すことなのか。喜んだり悲しんだりすることは、外の世界とは別の「心」という箱のなかで起こることなのか。他人の痛みを想像するとは、何をどうすることなのか。こうした問いを考えていきます。
そのさい、道標(というかたたき台)として、戦後日本を代表する哲学者である大森荘蔵(おおもりしょうぞう、1921-97)の『流れとよどみ』を用います。大森は、はじめ東京帝国大学で物理学を学びますが、戦後に哲学へと転向し、自身の思索を展開するとともに、当時まだ珍しかった英米の分析哲学を日本に紹介し、多くの優れた研究者を育てました。
大森は、とかく難解になりがちな哲学の専門用語や衒学的な雰囲気をできるだけ避け、とにかく「自分の言葉」、「台所言葉」で哲学の問題を考えようとした人物です。なかでも、この『流れとよどみ』は入門書として長く親しまれてきたもので、予備知識なしに哲学の問題に入り込むことができるようになっています。大森の議論に即しながら、ときにはそれを批判的に検討しながら、哲学の問題をじっくり考えていきたいと思います。
第1回講義:2023年02月08日(水):20:00 - 21:30
まず導入として、大森荘蔵という哲学者について簡単にご紹介したあと、そもそも哲学とはどのようなものであるかを考えます。後半では、『流れとよどみ』の冒頭の章「1 夢まぼろし」を読みます(画面共有をしながら解説するので、まだ書籍を手に入れていなくても支障はありません)。夢と現実はどのように区別されるのか、夢のなかで「この世界は夢だ」と正しく言うことはできるのか、といった問題を考えます。
第2回講義:2023年02月15日(水):20:00 - 21:30
「2 確率と人生」、「3 記憶について」、「4 真実の百面相」、「8 見る――考える」を読みます。「明日の降水確率は80%だ。だから傘を持っていこう」と判断するとき、私たちは過去の統計の話をしているのでしょうか、それとも未来の出来事について判断しているのでしょうか。また、記憶や思い出は、「過去の形見」であり「過去の写し」なのでしょうか。身近な出来事や何気ない言葉を、大森哲学の視点から検討しなおします。
第3回講義:2023年02月22日(水):20:00 - 21:30
「10 同じもの、同じこと」、「11 身振り、声振り」、「13 古くて新しい生理学」、「15 心の中」を読みます。握手やハイタッチや手を振ることと、声であいさつすることとは、何がどのように違うのでしょうか。また、脳は心を「生む」のでしょうか。さらに、心を「内側に広がるプライベートな領域」としてイメージすることは実情に即しているのでしょうか。言葉の意味、脳と心、心のあり方といった問題を検討していきます。
第4回講義:2023年03月01日(水):20:00 - 21:30
「17 ロボットの申し分」、「18 世界の眺め」を読みます。人間とそっくりにふるまうロボットは、心を持っているのでしょうか。ロボットの「心」の有無という問題を、根本にまでさかのぼって考えていきます。後半では、「世界を見る私」と「見られる世界」という常識的な二元論的モデルを批判的に検討し、一元論への転換の準備をおこないます。
第5回講義:2023年03月08日(水):20:00 - 21:30
「20 心身問題、その一答案」を読みます。中期大森哲学の総まとめ的な論文で、心身の関係という哲学の伝統的な問題に対して、大森自身の立ち現われ一元論に基づいた回答が示されます。
はじめまして。大厩 諒(おおまや りょう)と申します。ウィリアム・ジェイムズの思想を中心に、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカ哲学の歴史を研究しています。
普段は、哲学に対して歴史的にアプローチすることが私のメインの活動なのですが、今回の講義では、大森の議論を使って、哲学の問題を直接取り上げたいと思っています。
哲学は、ほかでは得られない世界の見方を私たちに与えてくれます。これは、とても楽しく、興奮する営みです。大森荘蔵という哲学者が見た世界の風景はどのようなものなのか。講義をとおしてそれを知ることで、私たちも世界の新たな見方を得ることができればと考えています。
みなさんのご参加を心よりお待ちしております。