終了済み講義

複製技術時代の芸術

『複製技術時代の芸術』

ヴァルター ベンヤミン 著

23年4月15日(土) ~ 23年5月6日(土)

毎週土曜日 20:00 - 21:30

講師写真未設定

講師: 松本 理沙

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視聴期限:2026年5月6日

全4回講義

参加料金:7920円

最少開講人数:10名

講義概要

この講義では、四週間にわたってヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術作品』の第三章「写真小史」と第一章「複製技術時代の芸術作品」を読んでいきます。

ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)は戦争とファシズムの時代に生きた思想家です。 彼の著作は非常に難解ですが、『複製技術時代の芸術作品』は現代に生きる私たちでも比較的読みやすい著作となっています。というのも、写真や映画、唯一無二の「アウラ(オーラ)」をまとう芸術作品など、イメージしやすい話題が扱われているからです。

今や写真や映画は日常に浸透しており、私たちは一方的にそれらの技術を用いていると思って生活しています。しかし実は、写真や映画といった複製技術によって、私たちの物の見方そのものもまた変化しています。

・デジタルで絵を描くことに慣れた人がアナログで描くとき、ついついキャンバスを指で拡大しようとしてしまう。 
・10年前に買ったDVDを見ると、当時は鮮明だったのに、今観ると画質が粗くて見づらい。

みなさんも一度はこういう経験したことがあるのではないでしょうか。 どんどん新しくなる技術によって、私たちの知覚や身体もまた変化することにいち早く気付いたのは、他でもないベンヤミンでした。 そしてファシズムが台頭する中、複製技術による私たちの変化に、ベンヤミンは可能性を賭けたのです。

したがって『複製技術時代の芸術作品』は、

・芸術と政治はどのように関係しているのか?
・技術が私たちの知覚や身体に影響を与えるとはどういうことなのか? 
・YouTubeなど、1920年代より一層世界に氾濫する複製技術は私たちにどんな影響を与えるのか?
など、現代の問題を考える上でも非常に有効な手引きとなります。

ベンヤミンを読むと、みなさんが普段何気なく楽しんでいる、写真や映画による経験や、音楽ライブでの経験、パソコンやスマホでの動画鑑賞など、身近な芸術経験の意味がガラッと変わるはず。 この講義がみなさんにとって、芸術、エンターテイメント、知覚、政治について、これまでとは異なる角度から思索する機会となれば幸いです。 ご参加お待ちしております!

講義は全4回となります。 第1回はイントロダクション、第2回は「写真小史」、第3,4回は「複製技術時代の芸術作品」を扱う予定です。

※講師は、ちくま学芸文庫の『ベンヤミン・コレクションⅠ 近代の意味』を使用する予定です。各講義内容では便宜上、『ベンヤミン・コレクションⅠ』のページ数を示しています。講義は晶文社クラシックスの『複製技術時代の芸術』など他の出版社の翻訳本で受けていただいても構いません。

各講義の概要

第1回講義:2023年04月15日(土):20:00 - 21:30

第1回は、ヴァルター・ベンヤミンの生涯を辿りながら、マルクス主義やファシズムの台頭、そして複製技術の飛躍的な発達など、ベンヤミンが生きた時代の思想的、社会的背景について解説します。 また本書を読む前に、2つのポイントについて議論していきます。一つ目は「芸術と政治」についてです。ベンヤミンは写真や映画といった複製芸術に政治的な可能性を見出しましたが、そもそも芸術と政治はどのように関係しているのでしょうか?特に、政治を芸術のテーマにするのではなく、芸術そのものが人間にもたらす影響を政治的に考察するということについてお話する予定です。 二つ目は、「日々の芸術経験」についてです。ベンヤミンを読む前に、写真や映画による経験や、音楽ライブでの経験、パソコンやスマホでの動画鑑賞など、身近な芸術体験について考えていきます。

第2回講義:2023年04月22日(土):20:00 - 21:30

第2回では、「写真小史」を解説していきます。 
ベンヤミンが著作の中でも触れているように、1920年代末から30年代にかけて、特色ある写真集が相次いで出版されました。こうした背景を踏まえつつ、「アウラ」、ロシア映画、「写真としての芸術」、ルポルタージュ、「写真の標題」といったキーワードをもとに読解していきます。結論部ではベンヤミンの他の著作で示されている概念やキーワードがいくつか出てくるため、講義では他の議論も簡単に紹介する予定です。 全体を通して、ベンヤミンが評価する写真の特徴についての理解を深めていきましょう

第3回講義:2023年04月29日(土):20:00 - 21:30

第3回では、「複製技術時代の芸術作品」の前半部(585-607頁)を解説していきます。 
まず冒頭に出てくるカール・マルクスの思想について簡単に確認します。続いて「アウラ」、礼拝価値と展示価値、コラージュなど、著作でキーワードとなっている語句を中心に読解することで、オリジナルと複製の違いを理解していきます。 ベンヤミンは芸術作品が唯一無二だった頃から一転、いくらでも複製可能な時代に突入することで芸術の社会的機能が変化したと考えていますが、それはどのような変化だったのでしょうか。「写真小史」での議論も参考にしつつ、結論に向けてこの問いの答えを予想してみましょう。

第4回講義:2023年05月06日(土):20:00 - 21:30

第4回は「複製技術時代の芸術作品」の後半部(607-629頁)を解説していきます。
映画におけるカメラ、ダダイズム、触覚的受容など、キーワードとなる語句を追うことで内容を理解していきます。最後にこれまでの議論を踏まえて、ベンヤミンがファシズムによる芸術の耽美主義化に対置する、コミュニズムによる芸術の政治化とはどのようなものなのかについて明らかにしていく予定です。またベンヤミンを踏まえたうえで、インスタグラム、YouTubeなど、1930年代より一層世界に氾濫する複製技術に対してどのようなことが言えるのか、みなさんと議論できればと思います。

講師からのメッセージ

普段は、アメリカのパブリック・アートと呼ばれる芸術実践を取り上げ、社会や政治と芸術の関係についての研究を行っています。

今回講義で扱うヴァルター・ベンヤミンは非常に難解なことで知られる思想家ですが、『複製技術時代の芸術作品』は政治と芸術との関係を考える上で必読の一冊になっています。 『複製技術時代の芸術作品』は、単に政治的なテーマの作品を扱うのではなく、知覚や技術そのものが持つ政治性について論じており、新たな世界の眺め方を教えてくれるような、非常に刺激的な議論が展開されています。 学問のおもしろさの一つに、今まで一面的にしか見えていなかった物事から、何重もの意味合いを受け取り、これまでとはまったく異なる仕方で世界を眺めることができる点がありますが、『複製技術時代の芸術作品』は、まさにそのような学問の魅力に触れるためにぴったりだと思っています。 今回の講義では、身近な事例を盛り込みながら、なるべくわかりやすくお話していく予定です。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。