終了済み講義
私たちの周りには、沢山の「芸術作品」があります。美術館に行けば、絵画や彫刻がありますし、劇場に行けばオペラ等の舞台芸術、コンサートホールではオーケストラの演奏を楽しむことが出来ます。現代では、テレビやインターネットを通じてこうした芸術に触れることが出来ますし、街中にも「アート」と呼ばれる様々な形態の「芸術作品」が溢れています。
では、結局「芸術作品」とは何なのでしょうか?おそらく私たちの多くは、「芸術作品」を目の前にしたときに、日常生活で触れる他の事物(例えば、ペンや机といった道具)とは異なるものに関わっているように感じるでしょう。「芸術作品」は、そういった日常生活で触れるものとどう違うのでしょうか?素晴らしい「芸術作品」を目の当たりにした私たちが感じる、あの「圧倒される感覚」は、どこから来るのでしょうか?
独自の視点から「芸術作品」について思索を深めたのが、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーです。彼は、主著『存在と時間』(1927)でよく知られる20世紀最大の哲学者の一人です。本講義では、1935/36年の講演から成立した『芸術作品の根源』という著作を読み進めていきます。彼の芸術論は、現代の哲学・美学に大きな影響を与えていますが、彼の難解な言葉遣いは、多くの読者を苦しめています。そこで本講義では、ハイデガーの芸術論のエッセンスを呈示するだけでなく、ハイデガー独自の用語を原文のドイツ語のニュアンスに遡ったうえで、出来る限りかみ砕いて解説していきます。そうすることで、ハイデガーの文章とその思索の内容に、より深く入っていくことが出来るでしょう。
ハイデガーの芸術論を理解するうえで肝となるのは、「真理」についての彼の思索です。彼は、「芸術作品」のうちに真理が生じていると主張します。果たして、この「真理」とは何を意味しているのでしょうか?そして、「真理」と「芸術」はどのように関わるのでしょうか?ハイデガーが芸術論を通じて思索をしようとしていた事柄にまで踏み込んで、じっくり読んでいきましょう。
ハイデガーの文章は難解ですが、特に『芸術作品の根源』は彼独自の表現が多く出てきます。その難解さに挫折しそうになるかもしれませんが、辛抱強く読み進めれば光がみえてくるはずです。私も、皆様の実り多い読書経験を支えられるように手助け致します。
本講義は、 ・「哲学」や「芸術」に興味がある方 ・ハイデガーの哲学に触れてみたい方 ・ハイデガーの哲学の難解さに挫折したことのある方 など幅広い方々に向けたものです。 ぜひハイデガーの芸術論を通して、彼の深淵な思索に足を踏み入れてみませんか? 皆様のご参加心よりお待ちしております!
※本講義では、関口浩訳『芸術作品の根源』(平凡社ライブラリー)を用います。
第1回講義:2023年05月12日(金):20:00 - 21:30
第一回講義では、『芸術作品の根源』を読んでいくための準備をします。ハイデガーの著作を読んでいくときに心がけるべきことを確認したうえで、簡単なハイデガー入門講義を行います。その中で、ハイデガーの哲学における『芸術作品の根源』の重要性も説明します。著作の背景にあるハイデガーが持っていた問題意識を踏まえることで、彼の芸術論をより深く理解することが出来ます。
第2回講義:2023年05月19日(金):20:00 - 21:30
第二回講義では、P.10からP. 39まで読んでいきます。 著作の最初の部分というのは、重要でありながら難しいことが多いです。この講義では、ハイデガーの問題意識と議論の目的を明確にしたうえで、円滑に彼の議論にはいれるように手助けします。この範囲で重要になっているのは、「芸術作品」に着目する動機と、「物」についての伝統的な理解に対する批判です。早くも難解な言葉が沢山出てきますが、要点を押さえながらじっくり読解していきましょう。
第3回講義:2023年05月26日(金):20:00 - 21:30
第三回講義では、P. 39からP. 72まで読んでいきます。 この範囲では、「道具」の分析から始まり「芸術作品」へと議論が進んでいきます。ハイデガーは、ゴッホの描いた靴の絵の分析を通じて、「信頼性」という道具の本質的なあり方を提示します。つまり「芸術作品」を通して、道具の本来のあり方が露わになるということです。なぜ「芸術作品」は、こうした道具の本来のあり方を露呈させるのでしょうか。ハイデガーの「真理」の議論に注目しながら、この範囲を読解していきます。
第4回講義:2023年06月02日(金):20:00 - 21:30
第四回講義では、P. 72からP. 100まで読んでいきます。 この範囲では、この著作の最も重要な議論といえる「世界と大地の闘争」について解説していきます。これは、「芸術作品」に固有なあり方として提示されています。この「世界と大地の闘争」も、「真理」の議論から理解できます。引き続き「芸術作品」と「真理」の関係を考えながら読解していきましょう。さらに範囲の後半部分では、「芸術作品」を考えるうえで重要な「創作」の側面が論じられます。ハイデガーは、ギリシア語の「テクネー」から創作行為を考えています。これはハイデガーの技術論にもつながる重要な論点ですので、しっかりと押さえていきましょう。
第5回講義:2023年06月09日(金):20:00 - 21:30
第五回講義では、P. 100からP. 130まで読んでいきます。 この範囲では、私たちと「芸術作品」との関わりが問題になります。「創作行為」に加えて、私たちの「鑑賞行為」がここで話題になります。ハイデガーは、「創作行為」を「詩作」、「鑑賞行為」を「見守り」と呼んでいます。ここで鍵となるのが、彼の「歴史」の議論です。彼の「歴史」の議論に注目することで、ハイデガーが私たちと「芸術作品」の関わりをどのように考えているのかを明らかにしていきましょう。
はじめまして。岡田悠汰と申します。 現在はドイツの哲学者マルティン・ハイデガー(1889年~1976年)を中心とした西洋現代哲学と、九鬼周造を中心とした日本哲学を研究しています。
今回扱う『芸術作品の根源』は、私が数年にわたって取り組んできた著作です。この著作は、読み返すたびに新しい発見があります。豊富な話題と論点を含んでいるといえます。今回の講義で、その全てを明らかにするといったことはできませんが、少しでもハイデガーの芸術論の奥深くに入っていきたいと思っております。
哲学書というのは、一度読んだだけで理解できるものではありません。しかしだからこそ、何度でも読み返す価値があるものだと思います。読み返すたびに、新しい発見があったり、逆にわからないことが増えたりを繰り返すことで、読書経験は深まっていきます。
今の時代、腰を据えて一冊の本を、しかも一見すると何を言っているのかさえわからない本を読む時間は失われつつあるのかもしれません。しかし、わからないことに出会い、そして苦労して少しでもわかるようになるという経験は、かけがえのないものだと思います。
私も、私自身が普段しているのと同じように、「わからなさ」に出会い、自分なりにぶつかって苦労して、「少しでもわかる」という経験をサポートできたらと思っています。 皆さまのご参加、心よりお待ちしております。