終了済み講義

神・人間及び人間の幸福に関する短論文

『神・人間及び人間の幸福に関する短論文』

スピノザ 著

24年6月11日(火) ~ 24年7月9日(火)

毎週火曜日 20:00 - 21:30

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講師: 榮福 真穂

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視聴期限:2027年7月9日

全5回講義

参加料金:9900円

最少開講人数:10名

講義概要

十七世紀の哲学者バルーフ・デ・スピノザは、デカルトによる新しい哲学の影響を受けながらも、形而上学と政治哲学の両方でオリジナルな思想を展開しました。特に、形而上学における主著『エチカ』の名はよく知られているので、みなさんも大学の哲学の授業や高校の倫理の授業などで聞いたことがあるかもしれません。しかし、『短論文』という著作について知っている人はほとんどおられないのではないでしょうか。それもそのはず、『短論文』は、実はスピノザを専門とする研究者にとってさえ謎の多い著作なのです。

正式名称を『神、人間、およびその幸福についての短論文』とするこの著作の謎を、少し見てみましょう。まず、この著作は、スピノザの死から2世紀経った19世紀に発見されるまで、ほとんど誰もその存在を知りませんでした。さらに、そこで発見されたのはオランダ語訳の写本であり、オリジナルのラテン語テクストの写本はまだ発見されていません。こうした込み入った事情によって、『短論文』の謎はまだまだ未解明のまま残っています。

ですが、すぐれた研究者たちによって日本語訳がなされてきたおかげで、さいわい私たちは『短論文』を日本語で読み、内容について議論することができます(これは本当に贅沢なことだと思います)。『短論文』は、『エチカ』より早い時期に書かれたものですが、スピノザ独自の思想がすでに表れた著作です。タイトル通り神→人間→人間の幸福、と進む順序は『エチカ』と共通しているので、『エチカ』のプロトタイプのような著作とも言われます。どのくらいの時期に書かれたかは諸説ありますが、比較的初期の著作であるだけに、『短論文』にはスピノザの知的なバックボーンがよりはっきりと表れています。デカルトの言っていることを素直に踏襲している箇所もあれば、当時のオランダの神学者たちの見解に真っ向から噛み付いている箇所もあります。スピノザははじめからスピノザではなかったのです。みんなが知ってるスピノザに「成ろうとしている」段階の、若きスピノザのみずみずしい思索の痕跡を辿ることが、『短論文』を読む醍醐味だと思います。

すでに述べたように、『短論文』はデカルト哲学や当時の神学論争など、いくつかの背景を知らなければ理解するのが難しい著作です。ですが、そうした背景を知ることができれば、むしろ『エチカ』よりも読みやすい著作とも言えます。講義では、そうした背景・文脈を補うことを中心に、この著作を「味わう」ところまでみなさんを連れて行きたいと思います。

もちろん、そもそもスピノザって誰?という話や、他の著作との関係といったこともお話ししますので、スピノザの著作を読むのが初めてのかたも安心してご参加ください。

*書籍は参加者各自でご用意ください。『神・人間及び人間の幸福に関する短論文』(畠中 尚志 訳 岩波文庫)、『知性改善論/神・人間とそのさいわいについての短論文』(佐藤 一郎 訳 みすず書房)、『スピノザ全集V 神、そして人間とその幸福についての短論文』(上野修訳 岩波書店)のいずれの訳書でご参加いただいても構いません。講義中に扱う訳語は畠中訳に基本的に依拠します。

各講義の概要

第1回講義:2024年06月11日(火):20:00 - 21:30

『短論文』発見の経緯や、執筆当時の時代背景、専門用語(「実体」や「属性」など)の意味を説明します。私はちょうど開講期に、オランダの大学で『短論文』とその知的背景についての研究を始めたところですので、私自身の研究内容についても少しお話ししたいと思います。

第2回講義:2024年06月18日(火):20:00 - 21:30

第1部「神について」の1章から4章までを読みます。神の存在証明や、神のあり方やはたらきといったことがテーマになります。神の「創造」や「善性」など、ユダヤ・キリスト教的な神論の要素と、そうした伝統と相反するような内在原因論が入り混じった、豊かで読み応えのあるパートです。2章と3章の間にはなんと対話篇も挿入されており、これも必見です。

第3回講義:2024年06月25日(火):20:00 - 21:30

第1部の5章から10章まで、そして第2部「人間ならびに人間に属するものについて」の1章から4章までを読みます。まず第1部後半では、自説に対立する説を紹介して、再反論する論争的な箇所が読みどころです。ここに著者の意図や、彼の思考の精錬過程の痕跡を読み取ります。第2部に入ると、テーマが人間の知識や感情といった馴染み深いものへと移り、ぐっと読みやすくなるはずです。

第4回講義:2024年07月02日(火):20:00 - 21:30

第2部の5章から18章までを読みます。ここでは、愛、憎しみ、希望、恐怖といった、個別の感情の分析が行われます。どれも鋭くて面白いのですが、尊敬と軽蔑、矜持と謙遜、自惚と自卑を区別して論じているところなど、著者のこだわりを感じます。私たちは「自由に」意志することも欲望することもできない、という『エチカ』に繋がるような主張も展開されます。

第5回講義:2024年07月09日(火):20:00 - 21:30

第2部の18章から29章を読みます。身体と精神の関係が主題の一つとなりますが、それらが動物精気を通じて相互作用を及ぼし合うというデカルト的な理解が示されます。このような身体・精神の合一体としての私たち人間は、どうすれば悪い感情から逃れることができるでしょうか。ここでもう一度「神」が登場します。『エチカ』とは一味違う『短論文』ならではの結論を、参加者のみなさんと見届けます。

講師からのメッセージ

フローニンゲン大学で哲学史研究をしている榮福真穂です。デカルト・スピノザを中心に、西欧近世の哲学を専門としています。

17世紀はしばしば「天才の世紀」と呼ばれ、独創的な思想を展開した哲学者たちが数多くいる時代です。他方で、彼らが生きていた当時のヨーロッパは、宗教戦争や内乱が絶えず、既存の価値観や秩序が根底から揺るがされた「危機の時代」でもありました。17世紀の哲学はその常識にとらわれない突き詰めた思考で時代を問わずわたしたちを魅了しますが、同時に、何を信じれば良いかわからない中で「自分の頭で考える」ことを求められる現代との重なるところの多さも、いつも興味深く感じます。

今回取り上げる『短論文』は、スピノザの著作の中では珍しく、「対話」が見えやすい著作だと思います。すでにある思想を学び、自分の考えと突き合わせる営みとしての「対話」。それは、「自分の頭で考える」ために不可欠なプロセスです。この点で、『短論文』から学べることは大いにあると思います。ぜひ一緒に読み解いてみましょう。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。