終了済み講義
テッサ・モーリス=スズキ『過去は死なない―メディア・記憶・歴史』を四週間かけて読みます。
私たちは「歴史」の中に生きていますが、「歴史」を意識することはほとんどありません。 目の前にあるのは「現在」であり、「今」の積み重ねが未来を作るのだろうと、そうぼんやりと考えながら日々過ごしています。
ですが、その圧倒的な「過去」の力は、私たちを決定的なところでつかみ取ってしまっています。
私たちのものの考え方。 私たちのものの感じ方。 私たちのものの見方。 私たちのものの伝え方。 そのすべてが、過去から「遺産」として受け継がれているものです。
それでは、「歴史」の枠組みの中で「現実」を見せられてしまっている私たちが「歴史」から距離を取るためには、一体どうすれば良いのでしょうか?
その方法の一つが、「歴史」を形作っている存在――メディアの性質を分析することです。
メディアは、私たちの認識や感情に直接的に規定する力を持っています。時に「現実」でさえ、メディアは創造してしまうでしょう。その舞台裏を徹底的に暴き出すことでしか、私たちは「自己」を取り戻すことはできないのです。
「現代歴史哲学」と「自己の哲学」を同時に学んでみたい方に、本講義をお勧めいたします。
第1回講義:2022年05月10日(火):20:00 - 21:30
まずは「現代歴史哲学」の基本について学びます。「ポストモダンの歴史学」が理論的に依拠するフェルディナン・ド・ソシュールの言語学を丁寧に解説した後に、そうした言語学が歴史学に応用されると、どのような原理的な難問が生じるのかを解説していきたいと思います。 こうしたイントロダクションを踏まえることを通して、『過去は死なない』の第一章が初めて読めるようになるはずです。
第2回講義:2022年05月17日(火):20:00 - 21:30
第二回講義においては、『過去は死なない』の第一章「過去は死んでいない」の内容を扱います。本書の第一章は最も難しい章の一つですが、イントロダクションで学んだ構図を押さえれば、問題なく読めるようになるはずです。
とりわけ本講義においては、「ポストモダンの歴史学」の問題点や、テッサが提唱する二つの「歴史」概念(「一体化としての歴史」と「解釈としての歴史」)の内実を、ポール・リクールの歴史哲学の観点から解説していきたいと思います。
第3回講義:2022年05月24日(火):20:00 - 21:30
第三回講義においては、『過去は死なない』の第二章「想像しがたい過去――歴史小説の地平」および第三章「レンズに映る影――写真という記憶」の内容を扱います。今回の講義で焦点が当てられる歴史メディアは「小説」と「写真」です。 小説は、一体いかにして「過去の景色」を創り上げてしまうのでしょうか? そして、あれほどまでに「真実」を伝えていると思しき写真が、なぜ「現実」の捏造に加担してしまうと言われるのでしょうか? こうした問題を、共に考えていきましょう。
第4回講義:2022年05月31日(火):20:00 - 21:30
第四回講義においては、『過去は死なない』の第四章「活動写真――歴史を映画化する」および第五章「視覚――漫画の見る歴史」の内容を扱います。今回の講義で焦点が当てられる歴史メディアは「映画」と「漫画」です。 過去を再現する歴史メディアとして、映画と漫画はとりわけ大きな影響力を持っています。(『永遠のゼロ』を記憶されている方も多いでしょう。) それでは、こうしたメディアによって形作られる「過去の風景」は、どのように私たちの「記憶」になってしまうのでしょうか? 過去は死なない――その言葉の意味を共に考えてみましょう。
第5回講義:2022年06月07日(火):20:00 - 21:30
第五回講義においては、『過去は死なない』の第六章「ランダム・アクセス・メモリー――マルチメディア時代の歴史」および第七章「“歴史への真摯さ”の政治経済学に向かって」の内容を扱います。最終講義においては、「マルチメディア時代」における「歴史的想像力」のあり方について解説を行います。 オーストラリアの歴史家テッサが述べる「歴史への真摯さ」とは、つまるところどのようなものなのでしょうか? その概念は、なぜ必要なのでしょうか? そして、その概念を獲得するために、私たちはどのように世界観および人間観をアップデートする必要があるのでしょうか? 「意識」を「自己意識」に変えるために、私たちが「私」を取り戻すために、最終講義においてテッサとリクールの洞察を共に学びましょう。
はじめまして。東京大学で哲学の研究を行っている山野弘樹と申します。
普段はポール・リクール(Paul Ricœur, 1913-2005)という現代フランスの哲学者の研究をしているのですが、「より多くの方々に哲学の〈意義〉と〈魅力〉を知ってもらいたい」という理念のもと、一般の方向けの哲学系イベントも数多く主催しております(すでに累計3000人以上の方々にご参加していただきました)。
また、最近は「VTuberの哲学」と呼ばれる新たな分野を開拓し、より多くの方々に哲学に興味を持っていただけるような取り組みを行っております。
私は大学時代に『読書について』を読んだことをきっかけに、哲学の世界へと足を踏み入れました。それ以降、数多くの哲学書を読破することを通して、「批判的読解力」や「論理的思考力」を獲得してまいりました。こうした思考法についてまとまったものが、『独学の思考法』(講談社現代新書、2022年)として出版されています。
「The Five Books」の講義においては、これまで東京大学で体得してきた〈読書の方法〉および〈哲学的な思考の方法〉を、分かりやすい言葉で受講者の皆さまにご提示したいと思います。 「これまで一冊も哲学書を読んだ経験がありません!」という方でも全く問題ありません。知識0の方が一からついてこれるように講義をデザインさせていただきます。
日々の生活を変えるための、そして、これからの人生を変えるための〈メタ思考能力〉を向上させたいすべての方(中高生・社会人・シニア世代の方)のご参加を、心よりお待ちしております。