終了済み講義

人倫の形而上学の基礎づけ

『人倫の形而上学の基礎づけ』

イマヌエル・カント 著

22年6月26日(日) ~ 22年7月24日(日)

毎週日曜日 20:00 - 21:30

髙木裕貴

講師: 髙木裕貴 (信州大学、京都大学)

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視聴期限:2023年7月24日

全5回講義

参加料金:8500円

最少開講人数:10名

講義概要

イマヌエル・カント(1724-1804)とは、泣く子も黙る(?)大哲学者です。おそらく多くの方がこの名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。カントは、哲学の内部でも、あるいは哲学の外部でも様々な形で現代まで影響を与え続けている哲学者です。しかし、その著作は(時には哲学者にとってすら)難解であることはよく知られています。ちなみに当時のある大哲学者はカントに対して「あなたの著作は私の体調がいい時にしか読めません。だからあなたの著作は私の体調を測るバロメーターです」という旨の手紙を送っています。カントの著作は当時の大御所哲学者にとっても難解だったのです。それゆえ、カントの本は一人で読もうとしても太刀打ちできないことがほとんどでしょう。だからこそ、本講義があります。

本講義では、四週間を使ってカントの主著『人倫の形而上学の基礎づけ』(1785年。以下『基礎づけ』と略記します)を読んでいきます。『基礎づけ』は日本でも昔からカント入門にふさわしい書と考えられてきました。かなり短い上に、カントにしては(?)文章が平易だからです。

さて、本書は哲学の中でも道徳哲学、もしくは倫理学に関する著作です。道徳哲学とは、行為の正不正、または善悪を扱う部門であると言えます。例えば、他人の嘘をつくことはつねに不正でしょうか、それともその嘘によって人が幸せになるのであればその嘘は正しいのでしょうか。みなさんもこのような倫理的ジレンマに何度となく遭遇したことはあるのではないかと思います。

この問いに対するカントの答えは「いついかなる時も嘘をついてはならない」というものです。その理由は主に『基礎づけ』第二章後半で展開されますが、まさにこの箇所の議論は多くの点で現代にも影響を与えています。例えば、多くの世界中の法的文書に盛り込まれている「人間の尊厳」という考えもカントに端を発するものです。

今回の講義では、このような道徳哲学に関するカントの見解を『基礎づけ』に基づいて解説していきます。カントが道徳を構築していく見事な流れを追跡していきましょう。もちろん、五週間の講義ではこれ以上を望むことは難しいですが、可能であればカントの見解をさらに批判的に検討していきたいと思っていきます。(ただし、テキストの難解さゆえ、本講義は決して楽なものではありません。細かな論点は省かざるを得ませんが、気になる点はいくらでもSlackにてご質問ください)。

ぜひこの機会に、『基礎づけ』を手に取って本講義に参加していただきたいです。誰も「置いてけぼり」にはしません。チャレンジングな体験に旅立ちましょう!!それでは、講義でお会いできるのを楽しみにしております!!

なお、本講義に参加される場合は、『カント プロレゴ―メナ 人倫の形而上学の基礎づけ』(野田又夫訳・中公クラシックス)をご準備ください(おそらくThe Five Booksの講義案内にも本の写真が出ていると思います)。この訳書には『基礎づけ』のほかに『プロレゴーメナ』という重要著作も含まれており、『基礎づけ』を読む際にも『プロレゴーメナ』は重要なヒントになります。また、『基礎づけ』には岩波文庫の『道徳形而上学原論』(タイトルの訳はちょっと違うが同じ著作)という別の翻訳書があります。これをご用意いただいてもかまいませんが、講義中にお伝えする頁数が異なりますので、お気をつけください。

各講義の概要

第1回講義:2022年06月26日(日):20:00 - 21:30

第一回はイントロダクションです。カントのごく簡単な人生とともに、哲学史・倫理学史におけるカントの位置づけを紹介します。次に、哲学史・倫理学史における『基礎づけ』の位置づけとその重要性や影響を解説します。カントが「古臭い古典」にとどまらないことを強調しておきたいです。これに加えて、『基礎づけ』を読み解くヒントやキータームを共有したいと思っています。カントは独特の言葉遣いをするので、注意が必要です。次回以降のために十分な準備をしておきましょう。

第2回講義:2022年07月03日(日):20:00 - 21:30

「序文」「第一章」を扱います。古典的著作においてはその序文が最も難解であることが多々あります。『基礎づけ』の序文も例外ではありませんが、それでも比較的短く、理解しやすい方なはずです。ここではカントが『基礎づけ』において設定している目標が開示されています。また、第一章も比較的平易に執筆されており、また具体例も多く含んでいるため、読みやすいと思います。カントの出発点は、道徳的な善さは行為ではなく、行為の結果でもなく、行為の動機にある、という「常識的な」考えです。第一章でカントはこの「常識」を分析することで、暫定的な結論に至ります。

第3回講義:2022年07月10日(日):20:00 - 21:30

「第二章前半」を扱います。第二章前半は『基礎づけ』の最も有名かつ重要な箇所である第二章後半のための準備作業とでも呼べる箇所です。そのテーマは端的に言えば「通俗道徳哲学の批判」です。この箇所は「何が正しいのかを検討する前に、何が少なくとも間違っているのかを明確にしておく」という作業として理解できます。では、カントはどのようなものを「通俗的」として批判していくのでしょうか。思想史的背景も踏まえて具体的に紹介していきます。

第4回講義:2022年07月17日(日):20:00 - 21:30

「第二章後半」を扱います。『基礎づけ』の見どころはこの第二章後半にあると言っても過言ではありません。カントは当時の通俗道徳哲学を批判した上で、第二章後半にて己の道徳形而上学を展開していきます。この箇所でカントはやっとこさ自説を積極的に展開していくのです。この箇所こそ、現代に至るまで大きな影響を与えてきた箇所です。ここでカントは、「普遍性」「目的それ自体(人間の尊厳)」「自律」「目的の国」というカント独特のキータームを展開していきます。

第5回講義:2022年07月24日(日):20:00 - 21:30

「第三章」を扱います。第三章は『基礎づけ』の中でも最も難解であり、かつ解釈上も多くの論争を引き起こしてきた箇所です。この箇所では「自由」が扱われます。カントの問いは、「我々は自由であるとどうして言えるのか」であり、端的に言えば自由の証明に関わります。これまでにカントが展開してきた道徳は、人間が自由であることを証明できなければ無に帰してしまいます。この点で第三章は非常に重要な個所です。ここを読み解くポイントは、『純粋理性批判』や『プロレゴメナ』に代表される認識論を参照することです(カントの著作の内容はすべて繋がってます)。

講師からのメッセージ

哲学は面白い!!!!私が胸を張って言いたいのはこれです。他方で、哲学は難しいし、意味がないと思われる方は少なくありません。確かに私もいつもこのように自問自答しています。ここでさしあたりこの「疑惑」に私なりに答えるならば、次のようになります。「簡単な学問なんか要らない。そもそも簡単な学問なんてありえないし、さらに簡単さはやりがいを削いでしまう。また、確かに哲学は利益を生み出すことはないが、そもそも目に見えて役立つような哲学は要らない。哲学はなにより、面白いという意味がある!!」この哲学の面白さを伝えたくてたまらない!!ぜひ講義でお会いしましょう!!

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。