終了済み講義
「現代社会のキーワードをいくつか挙げて」と言われると、大半の人が「情報」を含めて答えるのではないでしょうか。月並みな表現ですが、私たちは情報時代を生きています。ネット記事や新聞で「情報」を読み漁り、空に浮かぶ黒い雲から天候の「情報」を収集し、陰謀論めいた魅惑的な「情報」に惑わされ、スマホで通信できる「情報」の量を日々気にしています。
しかし、一旦冷静になって「ところで情報って実際のところ何なの?」と考え始めると、私も含め多くの人が言葉に詰まってしまうのではないでしょうか。言われてみると、上に挙げた数々の情報の例は、すべて同じ意味で使われているような気もするし、若干違うニュアンスを帯びているような気も……。驚くべきことに、現代社会を支えている「情報」という概念は、意外とよくわからないフワフワとしたものです。
哲学者の仕事の一つは、こうした曖昧な概念に関する厄介な問題を整理することです(もちろん、専売特許ではありませんが)。哲学者ルチアーノ・フロリディは、ここ20数年の間に「情報の哲学」という新しい分野を確立し、情報概念のあれこれについての書籍・論文を数多く世に送り出してきました。そんなフロリディの考えを最も手軽に知ることができるのが、今回の講義で扱う『情報の哲学のために』です。
原書のInformation(2010)は、オックスフォード大学出版のVery Short Introductionsシリーズから出版されています。これを聞くと「なんだ、あの短くて易しめの入門書か」と思う人もいるかもしれません。しかし、侮るなかれ。本書はフロリディ哲学のエッセンスをこれでもかと詰め込んでいるがゆえに、理解するためにはさまざまな前提知識が必要で、独学者が本書だけを読んで理解し尽くすことは困難です。
今回の講義では、じっくりと、それでいて効率良くフロリディ哲学のエッセンスを味わうため、特に重要だと思われる一部の章だけを扱うことにします(詳細は「各講義の内容」参照)。ぜひ私と一緒に、「情報の哲学」と「フロリディ哲学」に入門しましょう!
みなさまのご参加を心よりお待ちしております。
第1回講義:2022年08月07日(日):20:00 - 21:30
第1回はイントロダクションとして、情報の哲学という分野を概観します。「情報の哲学といえばフロリディ」といったイメージがあるかもしれませんが、この分野を鳥瞰してみると(意外と?)広大であることがわかり、フロリディの主張がより一層立体的に見えるようになるのではないかと思います。第一回では本書に深く立ち入ることはしませんが、「はじめに」(pp.1-3)だけは事前に目を通しておくと理解がスムーズになります。
第2回講義:2022年08月14日(日):20:00 - 21:30
第2回は「第2章 情報のことば」(pp.29-53)を扱います。この章は「情報概念の見取り図」をはじめ、「データ」「デドメナ」「意味論的内容」など、本書を理解するうえで欠かすことのできない重要用語が頻出します。同時に、背景知識がないと間違いなく理解できない難解な箇所も他の章より多く、上滑りの理解に陥ったまま続く章へと進んでしまう危険性を孕んだ章でもあります。注意深く読んでいきましょう。
第3回講義:2022年08月21日(日):20:00 - 21:30
第3回は「第3章 数学的な情報」(pp.55-71)を扱います。フロリディは数式をほとんど使わずに情報理論の説明を試みていますが、易しく書こうとするあまり、かえってわかりづらくなっている側面もあります。難しくならない程度に、必要に応じて数式や図を交えながら解説していきます。
第4回講義:2022年08月28日(日):20:00 - 21:30
第4回は「第4章 意味論的な情報」(pp.73-89)を扱います。この章は情報の哲学の花形とも言える内容で、「情報の真理性テーゼ」と「意味論的情報の情報量理論」という2つの重要な話題が取り上げられています。第2章と第3章で学んだことが前提となってテンポよく議論が進むので、これまでの講義を復習しつつ、腰を据えて取り組んでいきましょう。
第5回講義:2022年09月04日(日):20:00 - 21:30
第5回は「第8章 情報の倫理学」(pp.151-173)を扱います。フロリディで最も有名なのは、この章で扱われている情報倫理(e-環境倫理)についての思想ではないかと思います。一見すると第4章までの話題と独立しているようにも思えますが、実はこれまでの章で学んだことを基礎として情報倫理の思想が展開されています。「第1章 情報革命」(pp.5-27)にも少し言及しますので、余裕がある人は目を通しておくと理解がスムーズになります(もちろん、第8章しか読んでいなくても理解できるように構成しますので、ご安心ください)。
はじめまして。京都大学の榎本啄杜と申します。
大学入学後に「情報」の奥深さに魅せられてしまい、現在は大学院生として「情報の哲学」を研究しています(日本ではかなりの希少種のようです)。
大学院生として、と書きましたが、実は私の本業は研究者ではありません。平日の日中はいわゆるサラリーマンをしており、なんとかスキマ時間を見つけてはコソコソと研究に勤しむ生活をしています。俗に言う社会人ドクターというやつです。
参加者の方々の中には、時間が取りづらい中で、孤独と闘いながら黙々と本を読み進めていく大変さで心が折れそうになっている方もおられるかもしれません。その気持ち、本当に(本当に!)よくわかります。
参加者の方々と一緒に同じ本を読み進めていくという第一義的な目標も果たしつつ、仕事で思うように時間が取れなかったり孤独で不安を感
じていたりして悩んでいる方々に、同じ目線に立って寄り添える時間にできればと考えています。
みなさまのご参加、心よりお待ちしております!