終了済み講義
17世紀は、ピューリタン革命や名誉革命、30年も続いた宗教戦争があり、ペストさえ流行したのですから(現代の状況を思い起こさせます)、平穏な時代とは言えないでしょう。けれども、こうした時代にあっても、微積分学が形成され、原子論が復興し、ニュートンの引力理論が作られました。哲学においても、デカルトやロックによる新しい哲学が打ち出されたのもまさにこの頃です。時代の荒波のなかで、学問はおおきく前進し、新たな時代を迎えようとしていました。
こうした時代のうねりの影響を色濃く受け、18世紀前半に活躍したのが、ジョージ・バークリ(1685ー1753)です。彼は若書きで、最初の哲学的著作『人知原理論』(1710)を出版したのは20代半ばでした。しかしこの著作は、じつのところ、彼の期待に反して惨憺たる評価を当時の人びとから受けています。というのも、「外的物質は存在しない」というのがこの著作の趣旨だったからです。それでも、『人知原理論』の内容自体は、けっして間違っていないと確信していたバークリは、本書の内容を対話篇に書き改めます。そうしてロンドンに渡ってのち出版されたのが『ハイラスとフィロナスの3つの対話』(1713)です。
本作は前作と異なり、好評を博し、ロンドンでは、ジョナサン・スイフト、アレグザンダー・ポープなど当時の一流の知識人との交流が生まれました。サロンでもてはやされていたようで、バークリは一躍、時の人になったわけです。もちろんたんにレトリック表現が優れていただけで、本書が評価されたわけではありません。平易な表現ながらも、バークリの非物質論を的確に表現しえているからこそ、本書は当時の人びとに評価され、また現代においても大学の哲学科の入門書に使われているのです。本書は、まさにバークリ哲学ひいては哲学への格好の入門書です。この講座では、『ハイラスとフィロナスの3つの対話』を精読し、バークリの哲学の重要な部分を見ていきます。
第1回講義:2022年08月19日(金):20:00 - 21:30
バークリの議論の前提となる哲学的な思考様式をご紹介します。このことをつうじて、バークリが何と戦い、何を問題視していたかがあきらかになるでしょう。また、バークリの前後の哲学者の立場をご説明し、全体的な時代の流れを押さえます。
第2回講義:2022年08月26日(金):20:00 - 21:30
第一対話を扱います。そこでは非物質論というバークリの独特の立場が、対話をつうじてあきらかになります。ハイラスかフィロナスかのいずれかの立場に立って読んでみてください。
第3回講義:2022年09月02日(金):20:00 - 21:30
第二対話を扱います。バークリはここでおもにマールブランシュという哲学者の立場をターゲットに攻撃しています。はたしてバークリの議論はいかなるものか。この問題を中心にして見ていきます。
第4回講義:2022年09月09日(金):20:00 - 21:30
第三対話の前半を読みます。ここでは、バークリ自身の立場がいかなるものになるかが示されることになります。精神を中心にした哲学を唱えるフィロナスに対して、ハイラスが反撃を開始します。
第5回講義:2022年09月16日(金):20:00 - 21:30
第三対話の後半部分を読みます。非物質論が唱えられることで、いかなる成果が得られるのかが明らかになります。バークリの立場を最後に総括します。
はじめまして。竹中真也(たけなかしんや)と申します。17世紀から18世紀にかけての西洋哲学をおもに研究してきました。とりわけ力を注いできたのは、バークリの精神の哲学を軸に彼の哲学の全体像を描き出すことです。近年は、ポール・B・トンプソンによる農業哲学を手がかりにして農業という複雑な営為を捉え返したり、人新世以降の環境哲学をティモシー・モートンを中心に研究したり、最新技術のVRなどのリアリティ概念を考えたりしています。
大学生以外にも、小学生や社会人の講座で、哲学を紹介してきました。哲学にはたしかに難しいところもありますが、哲学者の議論を丁寧に追思考することは、スリリングでもあります。また、自分一人で考えているけれども、うまく言葉にならないもやもやした感情や思考がみなさんの中にもあると思います。哲学者はそうしたもやもやを見事に言い当ててくれます。そういう哲学ならではの、膝を打つような経験をするお手伝いができれば幸いです。この講座では、テキストを中心に置いて、哲学者が切り開く豊かなものの見方を楽しみましょう。よろしくお願いします。